日銀の「インフレ目標重視」は変わっていない なぜ追加の金融緩和を見送ったのか

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今回、日銀が金融緩和を見送った理由として、次のような見方をする向きもある。「金融緩和強化策が手詰まりになった(量的金融緩和策に限界がある)」「円安を望まない政府に配慮した」「インフレ目標を軽視し始めた」などの見方だ。

しかし、こうした考えを抱くと、今後の日銀の政策運営を見誤るリスクがある。黒田総裁は「(国債)買入れの限界を考慮しなければないとは思わない」と述べている。仮に日本の景気下振れが今後鮮明になり、2014年のようにGDP成長率見通しが0%台まで落ち込むなど景気後退シナリオが現実味を帯びれば、日銀が金融緩和に踏み出す可能性は残る。

ただ、最近の9、10月分の各国の経済指標の動きをみると、夏場の金融市場の混乱の震源だった中国をはじめとした新興国経済減速がもたらす先進国への悪影響は、日本や米欧で和らいでいるようにみえる。

実際に、米FRBが12月利上げに踏み出す可能性が極めて高い状況となっているのは、米国の国内需要拡大が2015年央の新興国経済減速や資源価格停滞の悪影響を吸収し、安定成長が続いている経済情勢が背景にある。同様に日本の経済指標減速にも歯止めがかかり、日銀の景気・物価判断は変わらないので現行の政策は維持される。以上が現段階で、当社が想定しているシナリオである。

杞憂だったコミュニケーションギャップ

なお、筆者は前回の本欄で、日銀による金融緩和強化見送りで、日銀と市場のコミュニケーションギャップが生じて円高が進むリスクに言及したが、それは杞憂だったようだ。実際には緩和見送りとみる投資家が多かったことがあるだろうが、ドル円は円安方向で推移している。

先に述べたが、黒田総裁が記者会見等で、2%のインフレ目標にコミットする姿勢は揺るがず、金融緩和強化の余地に言及するなど、市場とのコミュニケーションを無難にこなしたことも大きかった。

日銀が現行の政策を維持した後、債券市場では米FRBの利上げ観測の強まりで米欧の長期金利が上昇しているが、日本の国債市場では長期金利がほとんど動いていない。現行の強力な金融緩和が長期化するとの期待は根強い。これらの金融市場の値動きは、日銀の政策の根幹が揺らいでいないことを示している。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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