豊田章男はなぜ顔の見える経営者になったか

「前に出る男」が体現するトヨタ創業家の本質

豊田は、ピンチの場面で最初からチャンスの光景が見えているワケではないが、一歩踏み出すことで新たな変化点が生まれ、状況を整理して判断できると説く。その原点の一つとして、学生時代にやっていたグランドホッケーでの体験談を交えて、「中途半端にいくと自分が痛い(目を見る)から。早くいちばんヤバいところに近づくのがいちばん安全なんですよ」などとも明かしている。

これまでの自動車業界で、メーカーの顔になっている経営者といえば、カリスマとして君臨する日産自動車社長のカルロス・ゴーン、または、もともと創業家の女婿であるスズキ会長の鈴木修ぐらいだった。トヨタの歴代トップは、経済団体の要職も務めるなど経営者として極めて優れていたには違いないが、自動車業界、産業界、財界にとどまらずに「トヨタの顔」として認識されてきた豊田は、トヨタ史上でもやっぱり特異な存在だ。

トヨタグループの創始者、豊田佐吉の曾孫として生まれ、経営トップへの道が半ば約束されてきた人生を送り、その筋書きどおりにトヨタ社長に就任した豊田。だが、プリンスだからといって、最初から今のような心構えや行動パターンが確立できていたワケではない。

リコール問題での批判が転機になる

豊田の社長就任から8カ月ほど経った2010年2月。トヨタは意図しない急加速によるリコールの問題で揺れていた。豊田は当初、表舞台には出ずに対応を副社長以下の役員に委ね、記者会見を開かなかった。それがメディアからの痛烈な批判を呼び、米国議会の公聴会出席を余儀なくされた。これが豊田の転機になった。

豊田はそのときのことを、2010年6月に開催した株主総会でこう証言している。

「公聴会では、数百台のカメラが私に向けられ、瞬いたり、うつむいたりする度に猛烈なフラッシュがたかれた。質疑には、議員に答えるよりも販売店、顧客、 従業員や、その家族に話しかけるつもりで応じた。政治でも、お客でも、仕入先のせいでもない、人のせいにはしないと、自分の言葉で語るつもりだった。負け戦のしんがりを務める格好だが、光栄なことだ」

「公聴会を終えて、従業員との会合に臨んだときには、自分が守ろうとしていた人々に守られたことがわかり、恥ずかしながら涙が出た」

「潮目が変わったと思ったのは、ラリー・キング・ライブ(CNNのトーク番組)に出てから。リスクもあるが、編集されずにメッセージを送れる生放送に出たかった。商品や従業員が主役という考えから、これまではメディアを敬遠してきた。だが、今後はもっとトヨタの思いを届けるようにしたい、これは私なりのカイゼンだ」

「ラリー・キング氏に『あなたはどんな車に乗っているか』と聞かれ、年200台、いろいろな車に乗っている、と答えた。思えば、あれで『トヨタの社長は車好き』と思ってもらえたのが、潮目が変わったきっかけかもしれない」

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