豊田章男はなぜ顔の見える経営者になったか

「前に出る男」が体現するトヨタ創業家の本質

リコール問題よりも先に、豊田にとって難局だったのは社長就任直前のリーマンショックによって、トヨタが赤字に陥っていたことだった。2000~2007年に毎年50万台前後のペースで生産台数を増やし、会社が急成長した裏側で、それに人材育成が追いつかない状態にもなっていた。

それに豊田は若い頃から「ボンボン」「苦労知らず」などと社内も含めた周囲から言われ続け、そうした見方をされたくなかった面があったのかもしれない。社長に就いてしばらくは、メディアへの露出を極力避けて会社を守ろうと考えた。

これには豊田本人だけでなく周囲の過剰な防衛もあったのだろうが、結果的に見ると、こうした「閉じたコミュニケーション」が、リコール問題に対する当初の対応への批判につながったことは疑いようがない。

その難局を打開する糸口になったのは、豊田が米国の公聴会で前面へ出て真摯に受け答えしたことだった。豊田は前述したグランドホッケーでの経験なども交えて、ここで「開いたコミュニケーション」を実践し、前へと出ることこそが、経営者である自分に求められる役割だと認識しただろう。

もう一つ、ここではっきりしたことがある。豊田はその名のとおり、トヨタそのものの最終責任者なのだ。「私が謝罪すると、現在、過去、未来をまとめて、仕入先や販売店を含めてトヨタ自動車を代表して謝っているように聞いてもらえる」。豊田は後にこう振り返っている。

「トヨタのことをいちばん考えているのは豊田章男さんだと思う。何もしなくても末代まで左団扇で暮らしていけるのに、トヨタを永続的な存在にして、つねに時代とかかわっていく企業に成長させたいと考えている。自分の名前で責任を持ってやっている」。豊田との親交があるGQ JAPAN編集長の鈴木は、こう評する。

最後は「自分が責任を取る」覚悟

創業家を除くトヨタの歴代社長の多くが2期4年の任期で交代していった一方、豊田はすでに就任6年半に及んでいる。なんだかんだ言っても、豊田がトヨタ創業家の人間だからこそ、嫉妬や批判にさらされる修羅場をくぐり抜け、長期的な視点で経営に当たれ、何があっても最後は自分が責任を取るという覚悟でさまざまなことに臨める。

これらの要素が「前に出る男」豊田章男を形作り、「顔の見える経営者」へと変質させたのだろう。ただ、これは広報戦略かもしれないが、超大手企業の社長にしては経済誌の記者からは距離を置いており、少なくとも東洋経済の個別インタビューを受けたことはない。独占インタビューでなんとか引っ張り出したいというのは、多くの経済誌関係者が思っているところだ。

あまりにも華麗な生い立ちゆえに誤解されている側面もある。しかし、だからこそ豊田はたたき上げ社長にも、出世競争を勝ち抜いたサラリーマン社長にも見られない特性を持つ独特な経営者として、トヨタのDNAに根付くカイゼンを続けているのかもしれない。(敬称略)

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