「冬になると別人みたいに落ち込むのは私だけ?」「布団から出られない…」4年目の《冬季うつ》が教えてくれた"自分とのつき合い方"

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春になって、元気がわいてくるときの感覚を覚えている。目の前のモヤがふわっと晴れて、あたたかい風と光が気持ちよくて、体も軽くなって、「うわあ、元気だ!この感じ久々だ!こんな世界がわたしにあったんだ!」と目の前が突如ひらけていく感覚。

冬にもう何もかもダメだ終わりだと思っているとき、友達や家族に「大丈夫だよ」と励まされても、「何が大丈夫なんだ!全然何も大丈夫じゃない!」と、頑なにお先真っ暗であることを信じていたけど、春の光を浴びているとなんの根拠も理由もなく「ああ、なんか大丈夫かもなあ」と思えてくる。

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それは、地下に長らく潜っていて、潜っていたことも忘れるくらい長くそこにいて、ふと光がさしこんでくる穴を見つけて、そこから顔を出して周りを見渡してみるような感じに近い。

眩しさに目を細めながら、家族や友人を見つけて「なんだ、みんなこっちの世界にいたのか!だから大丈夫って言ってくれていたのか。たしかにこの世界なら大丈夫な気がしてくる」と安心するのだ。

そんなふうにわたしは2つの世界を不本意にも行き来している。

こういう話をすると冬眠する動物みたいだねと言われる。たしかに冬眠という言葉はしっくりくるかもしれない。狩猟採集民みたいだねとも言われる。今も世界のどこかで暮らしている彼らは、作物が採れるあたたかい季節には頑張って働いて、冬はその蓄えで生活しながら休んでいるらしい。

春夏のわたしに会いたい

1年を通してずっと同じように元気だなんて難しいし、季節と共にそういう波があって然るべき。そう頭では思うけど、周囲に冬は休んだらいいんだよと言われるとき、少し複雑な気持ちになる。別に休みたいわけじゃないのだ。できればずっと元気でいたい。元気じゃないのはつらい。

あらがえない自然の大きな流れと、自分の身体のペースに委ねて生きていくしかないのだろうか。

このあいだ、PCのデータを整理していたら、去年の冬のわたしが夏のわたしに宛てた手紙のデータが出てきた。毎年おんなじ状況に陥るので、自分の身に起きていることを書き留めておこうと思ったのだと思う。

友達がいないとか、人生間違えてしまったんだとか、仕事が不安なのでバイトを探しているみたいなこと、今後は全てをやめてカフェで働けたらいいかもしれないなどということが書かれている。

最後に、春夏の自分は今のこの状況をどう思うかと問いながら、こんなふうに締めくくられていた。

「春夏のわたしの意見を聞かせてほしい。会いたい。会ってできればなぐさめてほしい。元気づけてほしい。そっちに連れていってほしい。できればできれば」

かわいそうなことに夏のわたしはこの手紙を読んでいない。なぜなら夏は元気だから。そんな暇はないから。こうして冬のわたしがこの文章を見つけて読んでいる。わかるよ、おんなじ、と思いながら。

山田 由梨 作家・演出家

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やまだ ゆり / Yuri Yamada

1992年東京生まれ。立教大学在学中に劇団「贅沢貧乏」を旗揚げ。全作品の作・演出を務めるほか、ドラマ脚本・監督、小説・コラム執筆も手掛ける。『フィクション・シティー』(2017年)、『ミクスチュア』(2019年)で岸田國士戯曲賞ノミネート。セゾン文化財団セゾンフェローI。主な担当ドラマに、Abema TV「17.3 about a sex」「30までにとうるさくて」脚本。NHK 夜ドラ「作りたい女と食べたい女」脚本。WOWOW「にんげんこわい」シリーズでは脚本・監督として参加。Podcast「山田由梨の眠れないなら茶をのんで」がSpotify 等で配信中。
Instagram @yamadayuri_v

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