"現存する最古の洋食屋" 銀座・煉瓦亭のメニューはなぜ古くならないのか? 130年のレシピに施す《客に気づかれないプラスチェンジ》の妙技

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ただ、バブル後の国内景気の後退はジワジワと銀座にも押し寄せた。その間も堅実にポークカツレツなどを作り続け、なんとかしのぐことができたのは、そうした個人客のつながりにほかならない。

その後にやってきたのが2008年のリーマンショックだ。これもダメージが大きかった。しかし、そんなときに支えてくれたのも、やはりバブル期に広がったという個人客の客層だった。そうしたさまざまな人に支えられて何とか乗り切ったという。

「銀座は、やはり今でもハレの場所。そこへ来たからには『一番歴史のある店に行ってみたい』と思い出してもらえることがまず第一です。創業時の明治半ばには数軒の西洋料理店がありましたが、現存しているのはもちろんうちだけ。いわば洋食屋のパイオニアです。その歴史と自負があるからこそ、あれこれ方向性に迷うことなく、一直線にぶれずにやってこれた。それが130年間続いてきた一番の理由だと思います」(木田社長)

煉瓦亭が長く愛され続ける“究極の秘密”

元祖洋食
「元祖洋食 煉瓦亭」と書かれたレリーフが店内に飾られている(撮影:今井康一)

歴史的遺産ともいえるレシピを大切に守り続けながら、実は、客には変わったとわからないくらい、少しずつ時代に合わせて味はプラスチェンジをしているのだそうだ。「時代によって求められる味というのは、必ず変わっていくというのが真実だと思っていますから」(木田社長)。

木田社長は料理は作らず、調理は料理人にゆだねているが、その部分の舵取りを厳しく見極めてきたことも大きな理由であろう。実際、今食べても素直においしい。そのおいしさこそ、130年生き残り、なお繁盛店として愛され続けている秘密にほかならないのである。

一方で、木田社長はこんな不安も口にする。「何より厳しいのが、少子化も手伝って、飲食業界に入ろうという志のあるスタッフが激減していること。実際、『こんな店が?』というような名店が派遣人材に頼っていたりします。銀座という特殊に家賃の高い地域では、30年後に飲食店が残っているのか不安になるほどです」。

だからだろう。取材の最後に、これから先20~30年、そして100年先も続けていくためには何が必要ですか?と問うてみると、「人材育成が何より大切ですね。この味、接客の雰囲気などをしっかりと受け継いでいけるような人材を育成しないことには、終わってしまいますから。それは肝に銘じています」と、続く100年へ向けて重みのある言葉で話をしめくくってくれた。

小松 宏子 フードジャーナリスト

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こまつ ひろこ / Hiroko Komatu

祖母が料理研究家の家庭に生まれ、幼い頃から料理に親しむ。雑誌や料理書を通して、日本の食文化を伝え残すことがライフワーク。近刊に『トップシェフが内緒で通う店150』(KADOKAWA)。

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