Oさんは中学へ上がるとますます自己否定感を膨らませて、人と接することを怖がり、学校に足が向かなくなります。
家に閉じこもってSNSばかりやっている中で出会ったのが、ネット上に氾濫しているダイエット情報でした。ファッション関係の情報を集めていたところ、たまたまダイエット情報を発信しているインフルエンサーのアカウントにたどり着いたそうです。
このインフルエンサーは、体重の落とし方を教えるだけでなく、自分のガリガリにやせた身体の画像をアップすることでたくさんの〈いいね〉を集めていました。
Oさんはこれに影響を受け、ダイエット系のインスタや動画を探し回り、効果がありそうだと思ったものを手当たり次第やるようになります。
彼女がのめり込んだのが、チューブを使った嘔吐でした。最初は食事の後に嘔吐するだけだったのが、いつしか水を飲んでも不安になって嘔吐するようになりました。
体重はみるみる落ちていき、身長160センチに対して30キロ台にまでなり、頬は落ちくぼみ、学校に登校する体力すらなくなりました。家の中を歩くだけで息が切れるくらいだったといいます。
最終的に、父親から相談を受けた学校の養護教諭が、病院へつないだことで事態が明らかになりました。父親の話では、この時のOさんの外見は骨と皮だけのようだったそうです。
恐ろしいのは、そこまでやせても、彼女は自分が摂食障害になっている自覚を有しておらず、もっとやせて美しくなりたいという願望を持っていたことです。これは父親の言葉です。
「病院のお医者さんの説明では、うちの家庭がうまくいっていなかったり、同級生からいじめられたりしたことで、娘は自分の存在価値を見失っていたそうです。そうした中で、SNSを通してダイエットに出会ってしまいました。
娘はやせれば自分がこれまでとは違う、何者かになれると思い込んでしまったらしく、どんどん深みにはまっていって、摂食障害になったようです。本人もやせればやせただけ気分が晴れ、多くの人から認めてもらえる存在になれたと話していました」
Oさんは自信を喪失して自分自身が何者かわからなくなっていた時に、たまたまダイエットに出会ったことによって、やせることが自らのアイデンティティになったのです。
摂食障害は、複数の原因が合わさって引き起こされると言われています。一般社団法人日本内分泌学会は、次の3点を要因として挙げています。
この3つの摂食障害の要因に照らし合わせれば、女の子が生物学的要因を備えていたかどうかは定かではありませんが、家庭内不和やいじめによる心理的要因に、SNSの歪んだ美的観念という文化社会的要因が加わったことで、極端な行動に走ったと推測できます。
SNSと摂食障害の関係
改めてこのケースを振り返ってみると、女の子が家や学校で抱えた鬱屈とした気持ちを外に向けて吐き出す可能性もあったのではないかと思います。
つまり、他人に暴力を振るったり、いじわるをしたりすることで、ストレスを発散するという行為をしていてもおかしくはなかったはず、ということです。
ただ、彼女はいじめを受けていた上に、学校も休みがちになっていました。そのため、ストレスを外に放出する選択肢を失い、自らの中に溜め込んでしまった。そんな時にSNSを通してダイエット情報と出会ったことによって、摂食障害という形で自分を傷つけるようになったと考えられます。
ここに、他者を傷つけるのか、自分を傷つけるのかの分岐点があったのでしょう。そう考えると、どちらに転ぶかはその時の状況次第と言えます。



















無料会員登録はこちら
ログインはこちら