現地発レポート「近所にクマがいる日常に戸惑う日々」――秋田に暮らす人々が抱える不安と葛藤
あたりは開けた水田で、身を隠す場所はない。幸いクマは私に気づいていなかったが、クマと平場で1対1という状況に、冷や汗がにじんだ。
クマはあぜ道を走り抜けると、その先の水路に飛び込んだ。水路はところどころ茂みに覆われていて、クマがどこにいるのかわからない。早く民家や車に避難したかったが、そこまで行くにはクマの横を通り過ぎなければならない。
鉢合わせを避けるため、恐る恐る、水路をのぞき込んだ。その瞬間、クマと目が合った。クマは私に驚いて山のほうへと逃げていった。そのすきに私も車へ向かった。
いま考えると、あれは子グマだったかもしれない。人間を怖がるクマでよかった。距離があってよかった。もし違っていたら――と思うと、恐くなる。
私がクマと遭遇した田んぼでは、いま連日のように数頭の親子グマが出没している。坂本さんがクマと隣り合う日々をSNSに投稿しているので、ご本人のお許しをいただいて、文面のみ一部紹介したい。
数頭のクマが近くにいる中で農作業を進めなければならない様子、クマと鉢合わせしないよう音を出して工夫する様子、ロケット花火を打ち上げて追い払おうとしても反応しないクマの様子――。
坂本さんは〈我が家の田んぼの畦を歩く熊、我が家の田んぼのお米を食べる熊。毎日身の回りの死角から熊が出てくるんじゃないかとビクビクして暮らしている〉とつづる一方で、こうも付け加える。
〈これは自然災害。気候変動がまわりまわって、もたらしたこの状況を人間は考えなければならないよね〉
〈自然から学ぼう、しっかり〉
SNSでは自治体によるクマの駆除に抗議し、秋田や青森、岩手の農産物の不買運動を呼び掛ける投稿も見かける。日々危険と隣り合わせで作業を続ける農家を思うと、このような不買運動には戸惑いしかない。
「災害」という意識が広がる
クマに遭遇しないよう気をつける――といった自衛策は大切だ。一方で、自衛策をとること自体に困難のある人たちもいる。例えば一人暮らしの高齢者、視覚などに障害のある人、日本語の理解が難しい人、車を所有しない人――などだ。
「移動手段として車があったら、と思うようになった」。秋田市に住むAさんはそう語る。Aさんは生活保護を利用していて車を所有することができない。しかし生活圏で頻繁にクマが目撃され、恐怖を感じるようになった。「街中心部にまでクマは来ないだろうという思い込みがあった。でも街中心部なら安全だろうという常識は崩れてしまった。車が欲しいです」(Aさん)


















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