現地発レポート「近所にクマがいる日常に戸惑う日々」――秋田に暮らす人々が抱える不安と葛藤

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千秋公園前のお堀にかかる遊歩道
千秋公園前のお堀にかかる遊歩道。10月26日にクマが目撃されている(写真:10月29日、筆者撮影)

秋田市は全児童に「クマよけの鈴」を配布している。子どもたちはランドセルに鈴をつけて登下校し、もしクマに襲われそうになったら、うつぶせになって頭と首を守る「防御の姿勢」をとるよう学校で教わっている。

私の前で、防御の姿勢を取ってみせてくれる子どもを見つめながら、この小さな手で、首と頭を守りきれるだろうかと不安が募る。

クマによる事故を防ぐ方法
秋田県はHPで、クマによる事故を防ぐ方法などの情報を発信している(画像:秋田県HPより)
秋田市が全児童に配布しているクマよけの鈴
秋田市が全児童に配布しているクマよけの鈴(写真:筆者撮影)

子どもが通う小学校からは、連日のように「近くでクマが目撃された」「登下校はできるだけ保護者の付き添いを」というメールが届く。10月26日も、親子とみられる3頭のクマが学校近くで目撃された。

翌27日には、秋田市の南端にある雄和(ゆうわ)地区で、クマに襲われて亡くなったとみられる方の遺体が発見された。

子どもには下校後、家から出ないよう言い聞かせている。「人と動物を隔てる柵が、壊れてしまった動物園にいる」。ひどいたとえかもしれないが、私はそんな心持ちで暮らしている。

突然現れたクマに体がすくむ

秋田県では近年、人の生活圏へのクマの出没が増えている。県によると、今年はクマの主食となるブナの実が極めて少ない「大凶作」となっており、餌を求めるクマの行動範囲が拡大しているという。

今年の目撃件数は5996件(10月15日時点)。人身被害は49件(10月29日時点)。屋外でのイベントや学校行事の縮小・中止も相次いでいる。

秋田県はクマがどこに出没しているかを確認できる「クマダス」という情報マップシステムを公開している。目撃した人が自ら投稿できる仕組みで、刻々と情報が寄せられている。サイトを開くと、クマの出没マークが折り重なってマップに表れる。

実は今年6月、私も初めてクマに会った。場所は秋田県北部にある鹿角(かづの)市の山間地。コメづくりについて、農家の坂本寿美子さんに取材をしているさなかだった。

坂本さんが作業小屋に行っている間、私は一人、田んぼの真ん中にあるあぜ道に立っていた。すると、私の向かい側のあぜ道を、黒い生き物が横切っていくのが見えた。クマだった。距離は50〜100メートルくらいだったと思うが、記憶が定かではない。

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