「腹を斬った状態で、藩主のもとに…」朝ドラ『ばけばけ』小泉セツが尊敬する祖父の壮絶な切腹劇
しかし、一度、ならず二度も苦言を呈したにもかかわらず、斉斎に反省はみられなかった。それでも増右衛門は諦めなかった。「三度目の正直」とばかりに決死の覚悟で、藩主の行動を諫めたのである。
ただならぬ様子だった3度目の諫言
この3度目の諫言を行ったときの増右衛門がただならぬ様子だったため、退出後にすぐ斉斎は「呼び戻してくれ」と家来に言いつけた。そこで増右衛門が戻った詰め所を訪ねると、そのときすでに絶命していたという。死体を見れば、腹を切っているではないか。
驚くべきことに、増右衛門は先に密かに切腹し、腹を斬った状態で、藩主に苦言を呈しにいったのだ。歌舞伎にて、登場人物が観客に見えないところで切腹し、その後、迫真の演技をすることを「陰腹(かげばら)を切る」と呼ぶが、まさにそれを実践したことになる。
それだけの思いでぶつからなければ、わかってもらえないと考えたのだろう。その後、藩財政の悪化を受けて、斉斎は隠居させられることとなった。
小泉セツがその波瀾万丈の生涯において、幾度となく苦難を乗り越えられたのは、そんな祖父ゆずりの豪胆さがあったからだろう。
【参考文献】
小泉節子著、小泉八雲記念館監修『思ひ出の記』(ハーベスト出版)
小泉凡著『セツと八雲』(朝日新書)
NHK出版編『ドラマ人物伝 小泉八雲とセツ:「怪談」が結んだ運命のふたり』(NHK出版)
櫻庭由紀子著『ラフカディオハーンが愛した妻 小泉セツの生涯』(内外出版社)
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