顧客への想いは、ミスタードーナツの代名詞的な商品にも表れている。年末年始に発売される福袋だ。
その前身は、1973年に登場した「プレミアムグッズ」だという。オイルショックで油が値上がりした際に価格改定があり、ドーナツを購入した客に対して「御礼」という形でスタートしたものだ。中身の詳細な記録は残っていないが、「占いブック」という冊子だったそうだ。
その後、「年末のお楽しみ」として1986年に「アメリカ袋」という商品が発売されており、数年間カスタムして続いたようだが、内容についての記録は残っていない。

現在のような福袋が発売されはじめたのは1989年で、「祝い樽&おちゃめダイヤリー」というセットだったという。そこから、現在まで続く「スケジュールン」というスケジュール帳とドーナツ引換券、グッズが数種類というスタイルとなっていった。
福袋開発の目的は、「年末年始にもミスタードーナツを楽しんで、家でもグッズを楽しんでいただきたい。年末年始が終わっても、引換券を使って、長い間ミスタードーナツを楽しんでいただきたい」だったそうだ。
2019年からはポケモン福袋が定番となり、毎年2~3種類ほど発売されているが、いずれも人気が高い。
それもそのはず、福袋は1年前からグッズの選定をスタートし、サンプル作成、安全確認を経て販売している。時間をかけて丁寧につくられているのだ。
加えてもうひとつ、顧客への思いが現れている代名詞的サービスがある。「おかわり自由」のホットコーヒーとホットカフェオレだ。
コーヒーのスタートは1980年、「脱ファストフード店」を目指して、「ゆっくりと腰を据えてくつろいでいただくこと」を目的としたサービスだった。2005年にはホットカフェオレもおかわり自由で発売され、今日まで好評を博している。
次の55年への挑戦
2025年1月27日、創業から55周年を迎えたミスタードーナツ。新ブランドスローガンとして、「いつもあるのに、いつもあたらしい。ミスタードーナツ」を掲げている。スローガンに込められた想いは、「変えてはならないものを守りながら、時代に合わせた形に挑戦していく」だ。
変えてはならないものとは、愛される定番ドーナツや安心安全な商品、環境問題の対応、人と人とのつながりのあるサービス、清潔で居心地の良い空間。
変えていくべきものは、ミスタードーナツならではの商品や、時代の変化を先取りした情報発信、立地とニーズに合わせた店舗の出店、多様な使われ方に応じた利便性の向上。コラボ商品も、変えていくものの1つだ。

1970年に創業した際のミスタードーナツの理念、「客の心を心とせよ」を変わらず守り、発展していきたいと巖さん。2025年度内に、40店舗の出店を計画している。
「社会全体が複雑化している今、単一商材を売っていくことの難しさを感じています。ミスタードーナツらしい定番商品をお客様に喜んでいただくところはもちろん、『いつもあるのに、いつもあたらしい。』を提供できるよう尽力していきたいと考えています」
グループとして、新規の事業も常に模索している。ドーナツに続く商材、ブランドを求める声もFC加盟店から上がっている。そこに応えるべく、自社開発やM&Aの活用にも注力している。
ただし、やみくもに規模拡大を進めることはしない。FC加盟店との関係性を大切に、加盟店の理解を得ながら、新しいことにも挑戦していく。新規の加盟店も、理念を共有できる相手か、時間がかかっても見極めていくという。やっぱり、いちいち立ち止まり、悩み考える企業なのだ。
デジタル化が加速する外食業界で、アナログな「人間味」を武器に戦い続けるミスタードーナツ。その姿勢は、忘れかけられている客商売の本質を思い出させてくれる。
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