商品開発と同時に、TVCMや広告、SNSなどの戦略も練られる。「コラボ先の商品の最大の特徴を伝えられる」ビジュアルやメッセージが考案され、発売1週間ほど前から告知が展開される。
こちらも祇園辻利のコラボを例にすると、抹茶が練り込まれた生地が特徴の際には、「ドーナツを割り、生地の断面」をキービジュアルにする手法がとられた。見た目の美しさやおいしさはもちろん、技術力と品質の高さも、視覚的に表現したい狙いだったという。

加えて、メディアに向けて年に数回発表会も実施。発売前に事前試食をしてもらって生の声をレビューしてもらい、話題化につなげている。
ところで、開発においては驚くことに、性別や年齢など購買客のペルソナは決めないそうだ。少しはあるのでは……と何度も尋ねたが、「ミスタードーナツは老若男女に愛されるブランドです」と譲らなかった。ほかのドーナツにおいても、それは同様だという。
「100円セール」が招いた“悪夢”
コラボドーナツが生まれたきっかけは2016年、ミスタードーナツ史上一番の危機が訪れたことにある。
ミスタードーナツを含むフードグループ全体で、2015年に約2億円、2016年に約15億円、2017年に約7億円と、累計約24億円の赤字を計上したのだ。原因は、月2回実施していた「100円セール」にあった。
外食産業全体が価格競争に走る中、ミスタードーナツも同じ道を選択したそうだ。しかし振り返れば、この判断がブランドの価値を下げていた。
「1店1店で朝からキッチンで手づくりしているドーナツを、安価で販売してはいけなかったんです」
長年愛されてきたオールドファッションやフレンチクルーラーが、いつしか「100円の価値」として刷り込まれてしまっていた。顧客も「安いときだけ買えばいい」と学習し、通常価格では買わなくなっていた。

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