"史上最強"のザックジャパンはなぜ惨敗したのか? 元日本代表・今野泰幸が今だから明かす「俺たちのサッカー」の内実

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森保一監督が、24年5月に引退した長谷部をすぐさまコーチングスタッフに招聘し、長友をアジア予選スタートから現在に至るまで呼び続けているのも、「失敗した過去と同じ轍を踏まない」という強い決意からに違いない。

「長谷部はイザというときに、ホントに頼りになる人間なんですよね。僕らの頃も何かあると、長谷部と川島永嗣(ジュビロ磐田)が中心となってみんなを集めてしゃべるんです。そんなに大したことを言っていなくても、あいつが話すとチームが落ち着くんですよ。声なのか、見た目なのか、わからないけど、整ってる感がある。『こいつが言うんだから大丈夫』という気持ちになれたのは確かですね」

とはいえ、南アW杯直前に岡田監督が長谷部をキャプテンに指名したときは、サッカー関係者にとってサプライズ以外の何物でもなかった。年長者たちが違和感を覚えていたこともあり、今野は「ハセ、かわいそうだな」と思ったこともあったという。それでも長谷部は大仕事をやり遂げた。大きな山を乗り越え、圧倒的なキャプテンシーを身につけた。

「彼のような人間を代表コーチに呼んだ森保さんはさすがだと思います」

そして、長谷部コーチのような百戦錬磨のスタッフが帯同し、国際経験値の高い選手が集まる今の代表に対して、羨望のまなざしも向けている。

「今の選手たちは個々のレベルアップが著しいし、メンタル的にも超一流。世界トップと対峙しても動じないし、本当に自立している。W杯はガチの真剣勝負の場。僕自身も経験したとおり、難しさはありますけど、日本が過去に到達していないベスト8、ベスト4、何なら優勝もなくはない。そんな感触もあります」

2度のW杯で輝けなかった男が放つ言葉の重み

今野泰幸
穏やかな人柄の今野は代表チーム内でイジられキャラでありムードメーカーだった(撮影:ヒダキトモコ)

「僕らのときは(イビチャ・)オシムさんが指揮を執る体制で06年にスタートしたけど、オシムさんが倒れてしまい、岡田さんにバトンタッチして、急造で作り上げたチーム。しかも、南ア直前までのチームがグラついていて、直前テストマッチでも韓国にボロ負けして、キャンプに入ってからもイングランドやコートジボワールに負けて、ホントにヨタヨタの船だった(苦笑)。でも、森保さんのチームは4年間の積み上げがありましたし、その後の3年間も同じ方向性を継続させている。立派な船に乗ってるように僕には見えています」

実に彼らしい言い回しで森保ジャパンへの期待を口にする今野。だが、本当の勝負はここから。それは、11年前の経験からも言えることだ。

本番前の1年間の紆余曲折を乗り越え、さらに難しい本大会の初戦を勝って勢いに乗らなければ、すべてがご破算になりかねない。W杯の怖さを知る人間として、決して油断は許されないと今野は考えている。

「アメリカ遠征は勝てなかったけど、チームはいい方向に進んでいると僕は考えています。ただ、サッカーは何が起きるかわからない。仮にW杯本番の初戦でコロッと負けたときにどうなるのかという不安はあります。だからこそ、本当にスキなく入ってほしい」

かつて本田圭佑に「コンちゃん、W杯は憧れるところじゃなくて、勝ちに行くところだよ」とイジられていた42歳の大ベテランは、2度のW杯で輝けなかったからこそ、重みのある言葉を発する。その背後には、今野の後悔とも納得とも諦めともつかない、ある複雑な感情がある。

後編に続く)

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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