《ミドルのための実践的戦略思考》W・チャン・キム、レネ・モボルニュの『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』で読み解く 工具メーカーのマーケティング担当・清水の悩み

また、第5原則では「実行の際に重要なことは、ティッピングポイントリーダーシップである」と言っています。つまり、「すべてのスイッチを押しにかかるのではなく、影響力の大きい重要なスイッチを見極め、そのスイッチを押せるように全力を注げ」、ということです。例えば、既存のモデルで一番営業成績が高かった営業担当者などは抵抗勢力の筆頭になる可能性があります。裏を返せば、その営業担当者をひっくり返すことができ、その担当者が実績を上げるようなことができれば説得力は一気に高まります。したがって、そのような担当者に目をつけて、早めに巻き込み、一点突破で実績作りを目指す、というやり方は十分に考えられるでしょう。

■ミドルにおける「ブルー・オーシャン戦略」の価値

以上、行き詰った清水の立場でブルー・オーシャンを活用し、新しい戦略作りのアプローチを考えてみました。その上で、改めて、ミドルにとってのこの書籍の価値を考えてみましょう。

それは、この書籍は「現状の引力」に負けないための道具である、ということです。つまり、ミドル=現場の当事者としてビジネスを考えてみても、既存の枠組みやしがらみにとらわれて、通常はまったく新しいアイデアなどは出てきません。出てくるのは、現場でやっていることの「多少の改善案」のようなものが関の山です。そのときに必要なのが、「思考をジャンプさせる道具」であり、「ジャンプした後にちゃんと着地させるための道具」であるのです。普通はこれらの道具がないために、「現状の引力」に負けてしまいます。結果として、冒頭の議論にもあったように、誰もが良くないと思いつつ、レッド・オーシャンの中での戦いに明け暮れることになるのです。

もちろん、ここで描いたようなアイデアも含めて、新しいアイデアには必ず反論、抵抗、批判がつきまといます。しかし、このような現場で大事なのは、完成度100%の確実なアイデアではなく、「完成度30%程度のたたき台」であることが多いのです。その「たたき台」がほかのメンバーの思考の刺激となり、アイデアが形作られていくのです。現場のミドルが、単なる思い付きではなく、このようなブルー・オーシャンの原理原則を踏まえた「たたき台」をスムーズに提案できるか、ということが現場レベルで問われる重要なポイントではないのでしょうか。

ということで、ブルー・オーシャン戦略をご説明させていただきましたが、冒頭でも記載したとおり、このコンセプトの名前自体は、多くの方が一度は聞いたことがあるものではないかと思います。しかし、実は最初から最後まで丁寧にご覧になった方がいないのも事実です。実際に先日、ビジネススクールの受講生に尋ねてみたところ、しっかり読んだことがある人は1割未満でした。一般のビジネスパーソンも含めれば、名前ばかりが先歩きし、その中身、特に記載されている細かな原則論は実はあまり知られていないと思います。

もし「ブルー・オーシャン」という言葉を使っていながらその中身を理解されていないミドルの方がいましたら、まずはしっかりと本著を読み、原則をレビューされることをお勧めします。

■参考文献:
ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する  ランダムハウス講談社

《プロフィール》
荒木博行(あらき・ひろゆき)
慶応大学法学部卒業。スイスIMD BOTプログラム修了。住友商事(株)を経て、グロービスに入社。グロービスでは、企業向けのコンサルティング、及びマネジャーとして組織を統括する役目を担う。その後、グロービス経営研究所にて、講師のマネジメントや経営教育に関するコンテンツ作成を行う。現在は、グロービス経営大学院におけるカリキュラム全般の統括をするとともに、戦略ファカルティ・グループにおいて、経営戦略領域におけるリサーチやケース作成などを行う。講師としては、大学院や企業内研修において、経営戦略領域を中心に担当するとともに、クリティカル・ シンキング、ビジネス・ファシリテーションなどの思考系科目なども幅広く担当する。
Twitter:http://twitter.com/#!/hiroyuki_araki
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◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2011年11月29日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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