《ミドルのための実践的戦略思考》W・チャン・キム、レネ・モボルニュの『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』で読み解く 工具メーカーのマーケティング担当・清水の悩み
■理論の概説:『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』
「ブルー・オーシャン戦略」は、フランスのビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)の教授であるW・チャン・キムとレネ・モボルニュが著した『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』という書籍の中で紹介された戦略コンセプトです。
2004年に刊行されて以来、ビジネス界で話題を呼び、日本のビジネスパーソンの中でも広く浸透したコンセプトになりました。私が担当する経営戦略のクラスの中でも「ブルー・オーシャンのアプローチで考えると・・・」といった発言を耳にすることは多く、一般用語となった印象があります。
改めて簡単に解説しますと、「ブルー・オーシャン」とは、競合が存在しない新たな市場のことになります。既に競争のルールが確立され、血みどろの戦いが繰り広げられている既存市場(=レッド・オーシャン)との対比で語られます。つまり、戦略の本質とは、「決められた既存市場の中での横並びの消耗戦をする戦い方」ではなく、「誰も気付いていない新たな価値創造によって、需要を生み出していくアプローチ」である、というのがこの書籍の重要なメッセージになります。
では、その価値創造はどのように実現すべきなのか。ブルー・オーシャン戦略では、6つの原則を提示しています(下図参照)。
『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』より引用、筆者加筆
では、なぜこのコンセプトがこれだけヒットしたのでしょうか。それは、まず、既存の戦略論のアンチテーゼとして書かれていることにあります。例えば、本連載の第1回に紹介したポーターの戦略論では、「定義された市場の中で、いかに競合からの勝負に優位に戦えるか」、そして「コストか差別化か、どちらかを選ぶべし」ということが中心に語られています(もちろん、正確に言えばそれだけではないのですが)。しかし、このブルー・オーシャン戦略論においては、「その戦い方はレッド・オーシャンの戦い方であり、結果的には消耗して終わるだけだ。コストも差別化も実現できる新しい市場は必ずある。それを探すことから始めなければならない」と説きます。戦略のアプローチを敢えて二元論化し、自身のコンセプトを分かりやすく見せたことは、多くのビジネスパーソン、中でも既存の市場で横並びの戦いに疲弊していた人たちには魅力的に映りました。数多くの戦略論が多産多死する中で、まさにこのコンセプト自体もブルー・オーシャンを切り開いたといっても過言ではないでしょう。