《ミドルのための実践的戦略思考》W・チャン・キム、レネ・モボルニュの『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』で読み解く 工具メーカーのマーケティング担当・清水の悩み

IT社の営業担当者が日々接しているのは、企業の購買担当者になります。彼らに対して現場で使う工具を見積もりと共に提案し、契約に至ります。当然営業担当者にとっての顧客は購買担当者。したがって、彼らのニーズにどう対応するか、ということに最大限の意識が向くことになります。しかし、そのままで行くと、どの企業もやがては同じ競争軸の中で戦うことになります。そこで、買い手の定義を少しずらしてみましょう。他の買い手は誰かと言えば、現場の建設作業員になります。彼らに目を向けてみると、購買担当者とは違う風景が見えてきます。

例えば、現場では工具の手入れ、管理に多大な時間が割かれています。また、現場では実際にどの工具がどれくらい必要か、ということは予測がつかない場合があります。しかし、工具がないからといって作業を止めるわけにはいかない。現場においてダウンタイムは致命的です。

したがって、出来るだけ多くの工具を現場に揃えようとするのですが、そうなると管理が面倒になる。また、各現場でそれぞれ工具を購入することになると、工具の量が都度増えていくことになり、無視できないコストになります。当然、メンテナンスの手間もそれに伴い増えることになります。本来は建設に集中すべき作業員が、工具の管理に四苦八苦する姿が想像できます。

こういったことに着目すると、どのような戦略キャンバスが描けるでしょうか。既存の勝負においては、工具そのものの価格、種類、現場へのデリバリー納期といったことが重視されていました。しかし、新たな戦略においては、例えばその軸に現場でのメンテナンスの手間、ランニングも含めたトータルコストといったことも加えることができ、まったく新たな戦い方を打ち出すことが可能になるのではないでしょうか。つまり、例えば、工具を売り切るビジネスモデルではなく、リースとしてその現場で必要なメンテナンスされた工具のみを提供する、という形態などが考えられます。

さて、第2原則を踏まえて戦略キャンバスを描いてみましたが、さらに考えるべきことは続きます。まず第3原則です。ここでは、「顧客を限定的に捉えずに、どれだけ潜在顧客層を広げることができるかを考えるべき」、ということが語られています。

例えば、今の前提は大手法人顧客向けのビジネスですが、中小の建設業者にも顧客層は広がる可能性があります。財務基盤の弱い中小の建設業にとって、付加価値の高い高額工具の故障は、ダウンタイムによる影響のみならず、修理や買い替えのための資金面において大きな影響を与えることになります。また、好不況の波を大きく受けるため、専門的な工具も必要な時は数多く必要になりますが、不要な時は一切いらなくなります。おそらく、彼らの多くは新たに参入してきた中国企業による低価格の工具を中心にラインナップを揃えているでしょう。しかし、品質は決して高いとは言えず、度重なる故障問題を抱えているはずです。

他方、IT社としても、従来は予算規模が桁違いの大手建設業者をターゲットに積極的な営業を仕掛けており、このような中小建設業は相手にしていませんでした。しかし、ちょっと視野を変えてみると、このようなセグメントまで含めて新たな顧客層として取り込める可能性は十分にあることに気付きます。市場の広がりを考えると、検討する価値が十分あるオプショでしょう。

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