《ミドルのための実践的戦略思考》W・チャン・キム、レネ・モボルニュの『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』で読み解く 工具メーカーのマーケティング担当・清水の悩み

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《ミドルのための実践的戦略思考》W・チャン・キム、レネ・モボルニュの『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』で読み解く 工具メーカーのマーケティング担当・清水の悩み

■ストーリー概要:

大手工具メーカーであるインダストリアル・ツール社(以下IT社)は、岐路に立たされていた。IT社は、かつて小型・軽量化や新しいテクノロジーの積極的な導入によって、工具業界内でもプレゼンスを高めてきた。業界内には圧倒的に規模の大きい企業が既に2社あったが、それら二強に対してシェアこそ劣るものの、IT社は高付加価値メーカーとして業界内でも確実な地位を築いてきた。

しかし、金融危機以降の住宅投資の低下や公共工事の不振により、業界全体の売り上げは伸び悩んでいた。さらに、低コストの中国企業が、低価格を武器に市場参入を始めており、これからの大きな脅威になると思われていた。結果として、業界は典型的な成熟市場の過当競争の様相を見せており、国内工具メーカーは、どの企業も一様に業績不振であった。そのため、多くが今後の市場拡大が見込める中国などへのシフトを大きな検討課題に掲げていた。IT社は、そのような環境の中でどのような戦略を採るべきか、真剣に検討する必要性に迫られていた。

清水は、IT社におけるマーケティング担当の課長であった。清水の担当は、定期的に出される新商品のプロモーションの企画や営業ツールの開発などであった。月次で開発や営業の関係者が集まる会議に清水も参加しているが、最近は全般的に業績が芳しくないこともあり、会議も混迷気味であった。前回のミーティングも、目玉の新商品だったリチウム電池搭載の工具で議論が紛糾した。

「例の新商品、確かに客からの反応は悪くないのですが、値段がネックで売れません。これ以上安くならないのですか?」「これ以上安くすれば、完全に赤字になります。営業があと2倍売れるというコミットをしてくれるなら別ですが・・・」「そもそもこの売れ行きが芳しくないのは、競合に開発スピードで遅れたからでしょう。開発側のスケジュールの責任も相当でかいですよ。それさえなければ、2倍とは言わないまでも、全然業績は違ったはずです。そちらこそ、コミットを守るべきだ」

清水は最近のミーティングで続いているこうした不毛なやりとりに嫌気がさしていた。とは言うものの、自身に何か新しいアイデアがあるわけでもなかった。リチウム電池搭載商品は久しぶりにヒットの予感をさせる商品であり、清水も気合を入れてプロモーションを行ったのだが、真似をされるどころか、競合に先んじることすらできなかった。コスト競争も毎回議論に上がるのだが、業界3位のIT社、ましてや新興国の脅威がちらつくなかで、IT社が優位に立てる目算はなかった。

正直に言えば、関係者全員が八方ふさがり、という状況を薄々認識しており、こんなミーティングの議論で勝った負けたを決めたところで意味がないことは誰もが分かっていた。清水はもっと建設的な議論にするために、「何か全く別のアプローチから考えなくては」と思っていたが、焦るばかりで頭は空回りするばかりであった。

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