スリーマイル島、チェルノブイリ、福島……原発事故で企業の経営者はどのように裁かれたか。復権を阻むために必要な「事故後責任」の追及

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
東京電力で会長を務めた勝俣恒久氏(AFP=時事)

東京電力の旧経営陣3人が福島第一原発の事故をめぐり業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴された裁判で、最高裁判所は2025年3月、検察官役の指定弁護士による上告を退け、元副社長2人の無罪が確定した。同じく起訴された勝俣恒久元会長は、2024年10月に亡くなったことで起訴自体が取り消されている。これらの決定により当時の東電幹部に「刑事上の責任はない」ということが司法の結論となった。

「国の存立を揺るがし、多数の被害者を生み出すような重大事故を起こしても、幹部が免責される」。その先例ができるとともに、東電は柏崎刈羽原発の再稼働手続きを進め、関西電力は原発の新増設に向けた調査を始めた。

東電旧経営陣に対する責任追及は失敗に終わったのだろうか。「不当判決」を嘆く以外に、何かできることはないのか。それを考えるために、アメリカ・スリーマイル島原発事故(1979年)、旧ソ連・チェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故(1986年)の先例から教訓を探りたい。これらの先例で、原発企業の幹部はどう裁かれたのだろうか。

起訴も更迭も回避したワンマン会長

スリーマイル島原発2号機の事故は1979年3月28日、アメリカ・ペンシルベニア州で発生したメルトダウン(炉心溶融)事故だ。蒸気発生器に冷却水を送り込む主給水ポンプの停止が原因とされる。事故直後、一時14万人を超える住民が避難を余儀なくされた。運転企業GPUのウィリアム・クーン会長(当時)に対し、辞任を求める声とともに、事故の原因となった配管の欠陥に関する虚偽報告への関与を疑う声が高まった。

事故後、クーン会長が優先課題として取り組んだのは、事故を起こした2号機の廃炉ではなく、事故を免れた1号機の再稼働であった。

このようなクーン氏の動きに対して州知事や州議会議員からは「(再稼働よりも)経営幹部の能力と倫理的資質の問題を解決しなければならない」として辞任を求める要求が出された。原子力規制委員会のグリンスキー委員は、「事故前と同じ少数の経営幹部による運営が続けられ、以前と同じ欠点が残っている」(ニューヨーク・タイムズ、1983年6月24日)とクーン氏らを批判した。

別の場で同委員は「行政機関担当者への報告を怠ったことに対する懲戒処分や更迭が行われたこともない」とGPU経営陣の自浄能力欠如を厳しく批判している。

しかし州知事にも規制委員会にも幹部人事に介入する法的権限はない。会長含む幹部更迭を求める声に対して、クーン氏は子会社(GPU Nuclear)の社長を更迭(形式上は辞任)し、自らは会長の地位に留まった。

次ページ司法取引を駆使し、責任追及を回避
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事