風邪が「がん再発」の引き金になる?最新研究で判明:ウイルス感染が眠っているがん細胞を目覚めさせる"新事実"《医師が解説》

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

従来、がんが大きくなって血管に到達すると、血液中にがん細胞が流れ出し、転移すると考えられていました。

しかし、この10年ほどの間に研究が進み、がんの初期段階、つまり血管に到達するほど大きくなる前から、血液中に流れ出ていくがん細胞の存在が知られるようになりました。

そのようながん細胞のことを「循環腫瘍細胞(CTC: Circulating Tumor Cells)」と呼びます。

乳がんや大腸がんの患者さんを調べると、約30〜40%の割合で診断時点でCTCが見つかるという報告があります。つまり「早期がんだから再発しない」とは限らずしもいえず、治療開始時にはすでに目に見えない転移の芽が体内に散らばっている可能性があるのです。

では、抗がん剤治療を行えば、CTCも殺してしまうことができるのではないか?そう考える人もいるでしょうが、実はそれが難しいのです。

眠る「がん細胞」の存在

体内にいるがん細胞は、すべてが増え続けているわけではありません。

実は、がん細胞の多くは「休眠状態」にあります。こうした休眠がん細胞は、分裂増殖はしておらず、静止した状態でいます。抗がん剤の多くは「分裂して増える」ことを邪魔して効果を発揮するので、休眠細胞には薬が効かず、攻撃をすり抜けてしまうのです。

また、休眠がん細胞は「ニッチ」と呼ばれる隠れ家に潜んでいます。骨の中の骨芽細胞や血管の周囲にある「休眠ニッチ」に入り込み、周囲の細胞から栄養をもらって生き延びているのです。

そして、こうした休眠細胞は10年、20年と潜んでいて、何かのきっかけで再び増え始めます。

実際のがん治療の現場でも、乳がん患者さんでは術後5年以上経ってからの再発が少なくないことが知られています。女性ホルモンであるエストロゲン受容体が陽性の乳がんの場合、10年経過しても年間1〜2%の再発リスクが続くと報告されています。

がんの発生早期から全身に散らばり、かつ休眠して潜伏する性質こそが、がんの再発を完全に防ぐことを難しくし、がんを厄介な病気たらしめているのです。

そういう意味では、2025年7月に国際的な科学雑誌『Nature』に発表された研究結果は、画期的でした。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事