自慢話より失敗談が面白い 経営評論家・金児昭氏②

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かねこ・あきら 1936年生まれ。61年、東京大学卒、信越化学工業入社。99年に常務で退任するまで38年間、経理・財務の実務一筋。公認会計士試験委員、金融監督庁(現金融庁)顧問を歴任。経済・金融・経営評論家、作家、信越化学工業顧問、日本CFO協会最高顧問など。

48歳で初めて本を書いたとき、当時の小田切新太郎社長から三つのアドバイスをもらった。

(1)易しく本を書きなさい

(2)平日には書かないこと

(3)原稿料をもらわないこと

小田切社長に「原稿料は会社に入れます」と申し出たら、「自分の時間を使って自分で書いたのだから、原稿料はもらいなさい」と謎かけのようなことを言われた。その心は、原稿料がマイナスになるように自分の本を買って知り合いにあげなさいということ。理由は「男の嫉妬は怖いから」。このことは62歳で会社を辞めるまで人に言わないで守ってきた。

本を書くのはほとんど電車の中。退職後は東京駅近くにある信越化学工業の顧問室を使わせてもらっていて、毎日通っている。自宅がある埼玉県の小手指から池袋まで急行だと30分のところを、普通に乗って1時間、座って2Bのシャープペンシルで原稿を書く。池袋から東京までの丸ノ内線でも座ってひたすら書いている。調子に乗ってくると、終点の荻窪まで行っちゃう。荻窪駅の駅員とはもう顔見知りなので、「こんにちは」と言っていったん改札を出て、「さようなら」ともう一度地下鉄に乗って戻ってくる。1日3時間くらい執筆する生活を月曜日から土曜日まで続けている。

 他人の不幸は蜜の味

自宅には3畳間の書斎があるけど、そこではほとんど書かない。電車は冷暖房完備。雑音さえ気にしなければ誰にも邪魔されない。現役時代は帰りの電車では立っていたが、そのときもドアの角に立って思いついた数字の語呂合わせなんかを書き留めていた。

今は、だいたい同時に7冊の本を書いている。書き始めるのはバラバラで、数年前から書いている本もある。本を書くうえでいちばん気をつけるのは著作権。私は引用をしないが、いろんな本を読むので気づかないで盗用してしまうのが怖い。

ほかの人の本を読むときには、1回目に線を引いて読む。そこだけ破ってあとは捨てちゃう。2回目は破って残したページを読んで大事なところに赤線を引く。そして赤線の部分だけ残す。それで2~3枚になる。3回目にそれを読んで全部捨ててしまう。そうすれば、ぴったり同じことを書くことは防げるはずだ。

本に書くのは自分が体験したエンピリカルナレッジ(体験的知識)。成功したことより、失敗したこと、失敗しそうになったことを書く。読者が面白いと言ってくれるのは私の失敗話。他人の不幸は蜜の味。自慢話なんて面白くないからね。

週刊東洋経済編集部
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