中国人「爆買い」はなぜ消えた? 今求められる新たなインバウンド戦略。中国人“富裕層”ヴィトン爆買いに浮かれたツケとは

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自国の景気低迷も中国人の消費行動に影響している。中国の景気は2023年から変調していたが、「ゼロコロナ政策が終わって街ににぎわいが戻ったので、2023年は不景気の実感が薄かった周囲が失業者だらけになり、自分たちのボーナスも減った昨年後半から、不景気を体感する人が増えた」(中国大手製造業幹部)。

富裕層ではなく中間層

百貨店のインバウンド高額消費不振が、「中国人富裕層が離れた」ことを指すわけではないことも強調したい。

「日本で買うと安い」「航空券の元が取れる」と日本の免税店でルイ・ヴィトンやグッチを爆買いしていた中国人は、典型的な「中間層」だ。

周囲で見聞きした限り、友達から頼まれて、あるいは転売狙いで日本で高級ブランドを買っていた中国人も少なくなかった。ついでに言うと、高額品ではないが、中国で人気になっていた「ちいかわ」グッズも転売目的でよく売れていた。

2023年以降、中国ではさまざまなプラットフォームを見比べて一番安く買う「理性的な消費」にシフトしている。

昨年の訪日中国人旅行者の高額品消費は、円安によって海外高級ブランドがお得になり、コスパ意識の高い中間層が海を越えてやってきていた、というのが実相だ。

中国人が高額品を買わなくなり、百貨店にとっては痛手だろうが、一方でドラッグストアやドン・キホーテなどはインバウンド売り上げが伸びている。2025年4~6月の中国人観光客1人あたりの1泊の買い物額は、韓国やアメリカの倍以上の1万6014円と圧倒的に高い。

(画像:観光庁【インバウンド消費動向調査】2 0 2 5 年7月16日観光2025年4-6月期の調査結果(1次速報)の概要より)

いずれにせよ、百貨店や大型チェーンでの売り上げに一喜一憂するのは、日本が目指す観光立国の理想とは乖離しているように見える。

鎌倉高校前の踏切や河口湖のローソンに外国人が殺到するのは「公害」で、百貨店で何十万円もお金を落としてくれるのは日本経済にプラス、という考え方にも何だかなあと思ってしまう。後者の中国人は、パリでも中国でも買えるものが安く手に入るから来ているにすぎないのに。

中国人の旅行シーズンが近づくと、日本メディアに「中国人旅行者のトレンドは」と聞かれ、「SNSでは山形が人気ですが」などと水を向けられるが、「富裕層」「お得さを重視する中間層」「日本好きのリピーター」の旅行目的や行動スタイルはまるで違う。

インバウンド消費を日本経済の長期的な活性化につなげたいなら、日本の文化やコンテンツを深掘りすることに関心を持つ中国人旅行者のニーズとより真剣に向き合うべきだろう。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員(コミュニケーションマネジメント)

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

福岡市出身、早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で教員。現在は経済分野を中心に執筆編集、海外企業の日本進出における情報発信の助言を手掛ける。近著に『崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』(大和書房)『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
X: https://twitter.com/sanadi37
公式サイト: https://uragami-sanae.jimdosite.com/

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