■「飲食業の素人でも簡単に出せる」を徹底的に追及
VCは「ビジネスのプロセス上のどこで、どの程度コストをかけて付加価値を生み、最終的にどれだけマージン(利益)を出せるかを見るもの」でもある。その視点から考えると、他のプロセスをシンプル=低付加価値・低コスト化していることと比すると、「調達」コストが相対的に高いのではないか、というような仮説も浮き上がってくる。
別なフレームワークで掘り下げてみよう。業界内の力関係を見る「5つの力(5 Forces)」分析で考えてみると、缶詰を納品する食品メーカーの「売り手の交渉力」はNREという巨大な調達力の前にさほど大きくはないことがわかる。なぜなら、NREが扱っているのは車内販売で提供する大手メーカーの菓子やスナックなどの乾き物が多く、缶詰なども食品卸会社に一括発注できるであろうからだ。つまり、調達においてもNREが事業展開する限りにおいては、規模の経済性が効くのである。
VCに加え、飲食業でよく使われる指標のFL比率比(売上高に占める材料+人件費の比率)を併せて考えると、同店の魅力はさらによく説明できる。「調理」缶を開ける→時々チンをするぐらい。「配膳」も客がセルフで席に持っていくため、かからない。つまり、L=Labor(人件費)が極限まで低減できるので、Foodの原価が上げられる。スーパーやディスカウントで売っている「さばの水煮缶100円」的なものではなく、ちょっといいモノ、珍しいモノもラインナップできるのだ。しかも先に想定したようなグループのシナジーを効かせての規模の経済性も期待できる。
同店について紹介した4月2日付け日経MJの記事「缶’sBar(日本レストランエンタプライズ)(新拠点味力を探る)」には、同店のこだわりも記されている。立ち飲み屋的な雑然とした店内ではなく、シックな内装とジャズが流れる空間に仕上げたり、ドリンクの品揃えや酒器でも特徴を出したりしているという。しかし、社内ベンチャー起業の原点は「調理しなくても済むので、飲食業の素人でも簡単に出せるから」と同店の店長は説明している。細かな制約条件を取り払い、最もシンプルな出店形態を考えた末が缶詰立ち飲みバーだったということなのだ。
起業のアイディアはあちこちで見つけることができる。大事なのは、それを束ねて一つの形にすること。その中で自社としての強みを明確にすること。そして、いつまでに、どうありたいかを明確にすることだ。そのロジカルな思考がアイディアを単なる思いつきに終わらせないために重要なプロセスとなる。その思考プロセスにおいて、今回、紹介したような、先人の作ったビジネスの定番フレームワークを是非、積極的に活用していただければと思う。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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