東京・JR秋葉原駅近くにある高架下の、フードが缶詰だけというバーの話。
・・・と聞くと、「ああ、立ち飲みね」と思われるかもしれない。確かに個人商店の立ち飲み屋の基本形ではある。だが、40種類もメニュー(缶詰)があるのが特徴だ。価格は1缶300~800円。客席には大根おろしや刻みネギなどのトッピングも用意されており、中身によっては温めてもらうこともできる。同店は「缶’sBar」という屋号で今年1月にスタートしたという。
同店を運営しているのは個人商店ではない。株式会社日本レストランエンタプライズ。通称、NRE。JR東日本グループの総合外食企業として、駅構内での駅弁の販売や駅そば店などの営業なども手がけているが、メイン業務としては新幹線や特急列車での車内販売を展開している。缶’sBarは、その社内ベンチャーとして出店されたのだ。
JR東日本傘下ということで、もとより好立地の期待できるこの店舗。その店舗・顧客双方にとっての魅力を、経営学の定番フレームワークを使いながら考えてみたい。
■商品は缶詰に絞り込み、40種類を揃える
まず、商品のラインナップを考えるときには、通常「幅(商品カテゴリ)」と「深さ(アイテム数の多さ)」で考える。幅が広ければ、より多くの顧客ニーズにマッチし、深さがあればその魅力度を増すことができる。
「缶’sBar」の特徴は、幅を「缶詰」だけに絞り込んで、深さを40種類も増やしたことに尽きる。幅の狭さは専門店なら珍しくはない。ラーメン屋はチャーハンなどの飯モノを扱う程度だし、そば屋も「うどんもありますよ」的な展開ぐらいに絞っている。しかし、40種類も用意はしていない。
なぜ、缶詰であれば深さを追求でき、ラーメン屋やそば屋では難しいのか。「食材の調達」→「保管」→「調理」→「配膳・下膳」→「廃棄」という飲食店の「バリューチェーン(以下、VC)」に添って考えると理由を整理しやすい。
まず一つは、運営が非常にシンプルで済むということだ。缶詰であれば「保管」は全て常温で済み、また、「調理」は缶を開けるだけでいい。その分、店舗の設備開発コストや店員の教育コストなどを最低限に押さえることができる。
しかも、最後の「廃棄」過程にもメリットが認められる。廃棄には料理の残滓だけではなく、調理されずに鮮度の悪くなった食材も含まれるが、生鮮品と異なり缶詰は賞味・消費期限が圧倒的に長く、結果、食材の廃棄リスクを極めて低く留められるのだ。
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