恐竜は追ってこなかったが…「ジャングリア沖縄」開業1カ月。沖縄記者の台湾インバウンドへの影響の考察と、「刀」に対する“率直な本音”

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そんな台湾の人々は、主に旅行情報を渡航者のSNSで入手するという「口コミ文化」が強い。ジャングリア沖縄のスタートの躓きは、実際に訪れた台湾人旅行者のショート動画で早くもいじられる対象となってしまっていたのだ。

そもそも、台湾人のジャングリア沖縄の認知度はどうだったのか。

台湾でマーケティング業を営む「台灣琉球黃豆冰有限公司」の代表で沖縄県出身の平良育士さんは「もともと沖縄旅行に行く予定がある人以外は、そんなにはジャングリア沖縄についての情報をキャッチしていないのではないか」と分析する。ただ、その少ない中でも触れられる情報には「『行っても何も乗れない。全然ダメだ』というような悪い内容が目立っています」と現状を直視した上で「今後、ジャングリア沖縄を楽しむ“攻略法”が確立されていけば、それに関連したコンテンツがぽこぽこと出てくると思います。そうなるとその攻略法に基づいて楽しめる人が増え、肯定的な情報も発信されるようになるのでは」と見通しを示す。

沖縄記者の、刀に対する率直な思い

スカイフェニックス
ジャングリア沖縄のアトラクション・スカイ フェニックス(画像:花城綾子)

このように評価が分かれるジャングリア沖縄ではあるが、「森と恐竜」で沖縄の観光イメージに幅を持たせることに貢献したのは、特筆すべきことだったと思う。

「沖縄と言えば」で、きっと多くの人が想像するであろう青い海と白い砂浜。「夏の海」はまさにそのまま沖縄のイメージだ。ただ、ハイシーズンである夏季に観光需要が集中することで、ホテルやレンタカーの需要と供給のバランスにばらつきが出てしまい、安定した働き方や雇用が実現しにくいという問題点を含んでいる。

沖縄県による2019年の観光統計実態調査では、入域観光客数が8月の約100万人に対し、12月は約75万人に減少する。「沖縄観光の年間平準化」は、前述の「観光滞在日数の少なさ」と同じく、沖縄観光の課題だ。そこに「夏の海」以外を主力とするカードを切ったことそれ自体に、意味があると考えている。

また、2021年に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として世界自然遺産に登録されたやんばるの森は、その生物多様性の高さが国際的に評価された。海以外の自然にも魅力を感じて観光客が集まることで、オンシーズンとオフシーズンの差が縮まるきっかけにもなる。

実際、ジャングリア沖縄がもたらした「森と恐竜イメージ」は、早くも近隣施設に波及している。近接の名護市にある動植物園「ネオパークオキナワ」は新たなゾーンとして「ジャングルエリア」をオープン。紅芋タルトなどお菓子の製造販売を行う御菓子御殿が運営する既存の施設「DINO恐竜PARK やんばる亜熱帯の森」も再注目を浴びている。

また、ジャングリア沖縄の現時点での低評価はどうあれ、自らの顔と名前を前面に出し、堂々と「沖縄北部に人を誘引することで沖縄経済に貢献したい」と明言して、矢面に立ち続ける株式会社刀(ジャングリア沖縄を主導する会社)の森岡毅CEO氏の姿には、いち県民として感銘を受ける。失敗を恐れずにリスクを背負って行動するのは、何かを起こそうとする多くの人が見習うべき姿勢であると感じる。このような森岡氏の覚悟と熱意が見えるからこそ、沖縄企業から多くの出資を集めることができたのだろうし、スタートダッシュで躓いても県民が温かい目でこれからを待てるのだと思う。

開業間もないジャングリア沖縄。「北部振興の起爆剤」は、その爆発力を生かして花火を高々と打ち上げることができるのか、それとも沖縄に多数残る不発弾さながら終わってしまうのか。いずれにせよ、始まったばかりだ。

【画像を見る】お値段は高め…でもビジュアルセンス抜群でおいしそうな《ジャングリア沖縄》の食べ物はこんな感じ
【前編を読む】「沖縄の“南北問題”に一石を投じる」「北部観光の起爆剤」と期待されたが…《ジャングリア沖縄》オープン前のリアルな沖縄県民感情の実態
長濱 良起 フリーランス記者

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ながはま よしき / Yoshiki Nagahama

フリーランス記者。得意ジャンルは音楽・経済。沖縄県出身・在住。
元琉球新報記者。フリー転向後も新聞や雑誌、書籍、ウェブ媒体などでの記事執筆を続け、これまでの取材執筆本数は約2000本。海外メディアの日本国内取材コーディネーターとしても活動。旅と音楽が好きで、訪問国数40ヵ国超。1986年生まれ。

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