【朝ドラ】やなせたかし、長所に気づくきっかけとなった手塚治虫からの電話とは
「つまり、この人はね、有名な人だとか、これは芸術院会員だとか、まったく認めませんからね、子どもは。特にちっちゃい子どもは。自分が気に入るか、気にいらないかっていう、どっちかでしょ。それが毎年違う子どもが来るわけですから。それとつまり、勝負していくっていうのは、真剣っていうかね、冷酷な読者を相手に仕事をしているから、いつもまあ真剣勝負っていうか、批評家よりももっとさらに怖いですね」
実際に子ども向けの仕事を引き受けてから、なおさらその難しさを実感した、やなせたかし。大きな転機が意外な方向から訪れる。それは「漫画の神様」、手塚治虫からの電話だった。
手塚治虫からの電話をイタズラだと思い込む
「実はね、今度虫プロで長篇アニメをつくることになったんですよ」
いきなり電話でそんなことを言われて面食らったやなせが「はあ、大変ですね」と気のない返事をすると、手塚はさらにこんなことを言い出した。
「それで、やなせさんにキャラクター・デザインをお願いしたいんです。引き受けていただけますか」
当時の手塚治虫について、やなせは「その頃は既に漫画の神様に近く、名声も確立して収入はぼくの数倍もあったが、ぼくとはまったく世界がちがったから、ほとんど関心はなかった」とのちに本で書いている。偽らざる本音だろう。先のラジオ番組で漫画家仲間について、さらに掘り下げてこう語っている。
「競争相手なんですけども、仲はいいですね。相手をやっつけよう、とかね、そういう気持ちがまったくない。っていうのは、僕らの仕事はほかの人とまったく違ってなくちゃいけないんですね。こっちの人と似ているってだけでもうダメなんですよ。ですから、競争相手なんだけども、違う仕事しているから。何にも憎らしくもなんともないですね」
自分に関係ない……そう考えていただけに、手塚からのアプローチには驚かされた。
このときのことを、やなせはのちに「魔法のジュータンに乗らないかとさそわれたような気がした」と語っているが、現実味がなかったのだろう。思わず「いいですよ」と即答。電話を切ってからこんなふうに考えたという。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら