まだロッテのお家騒動は終わっていなかった 長男が父親を担ぎ出し、戦いは第2ラウンドへ

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このため、宏之氏側は従業員持ち株会の“気持ち”を振り向かせることよりは、議決権の正統性を問う方向で戦略を立てたようだ。その内容は、「経済的株式価値」という概念だ。宏之氏側の説明によれば、従業員持ち株会のように額面基準で配当を受け取る株主と、事業の実績によって配当を受け取る株主は議決権にも差があるという主張だ。事実上、従業員持ち株会などは権利が保障された株主ではなく、これを除けば光潤社の経済的株式価値が55%に及ぶのだという。

これは理解を得にくい主張だ。記者会見でこの主張を開陳した際、記者たちは誰もが呆れた表情を見せた。宏之氏側の諮問団は「従業員持ち株会の理事長1人がロッテホールディングス27.8%の議決権を行使するのは行き過ぎという意味」と説明したが、経営権を問うためにこのような概念を使ったことはこれまでなかった。そのため、誰もが論理の飛躍だと受け止めている。ロッテグループ関係者もまた、「牽強付会。当然、受け入れられないものだろう」と呆れる。

結果がどうあれ、昭夫氏の立場では風向きがあまりよろしくない。宏之氏がまたもや世論喚起の戦術に出たため、8月の株主総会以降、ようやく落ち着き始めた局面が再びざわつき始めた。外野から見れば、「誰が悪いのか」を問う前に、しょせん財閥一族の争いに過ぎない。だからこそ、一般大衆の冷たい視線を避けられない。

さらには、昭夫氏は9月17日、韓国国会の政府委員会国政監査に証人として出席、「これ以上の経営権争いはない」と断言していた。こう言ってしまった後に発生した事態に、メンツも潰れたわけだが、争いばかり続く企業というイメージが、昭夫氏にとって重荷だろう。

経営の重要な時期になぜ騒動?

さらに気がかりなのは、この時期、ということもある。昭夫氏は最近、免税店事業に死活をかけている。今年いっぱいで政府の許可が切れるソウル市内2カ所の大型免税店の運営権に対し、新世界(シンセゲ)や斗山(ドゥサン)、SKネットワークスから挑戦状をたたきつけられた。国内での立場は強固だが、事業への独占批判がわき起こり、さらには今回の経営争いの余波で政府からの介入を招きやすい状況になってしまった。

免税店はホテルロッテの売り上げ全体の85%近い主要事業であり、百貨店とともにグループを象徴する事業である。もし2カ所のうち1カ所でも明け渡すことになれば、量的にもショックは大きいが、昭夫氏のキャリアにも傷が付く。ある財界関係者は「宏之氏がこのタイミングで騒ぎを起こしたことも、弟の昭夫氏の経営能力にわざわざ疑問符を与えようとする意図。会社のことを考えるオーナーとはまったく思えない行動だ」と憤る。

ここまで来た以上、宏之氏は長期戦の構えだ。第1ラウンドから行ってき“父親戦術”もさらに続く可能性が高い。すでに、記者会見を今後開けば、そこには武雄氏が同席するのではとのうわさも出ている。昭夫氏としては、何があってもこれをやめさせたいが簡単ではない。

ロッテグループが「94歳の高齢で記憶力、判断力が落ちている」という表現のみを武雄氏に対して繰り返しているのも、どう対処したらいいか曖昧な部分があるためだ。父親の健康状態をめぐって兄弟同士で争う場合、世論の集中砲火を浴びることもある。

それにしても、日本では「お口の恋人」を自称してきたロッテ。顧客の口に入れるもので商売をしてきた企業が、今となっては誰もが苦々しくなるようなまずい行動ばかり見せているのは間違いない。

(韓国『中央日報エコノミスト』2015年10月26日号)

チャン・ウォンソク 韓国「中央日報エコノミスト」記者
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