傾きマンション事件が起こるのは必然だった 民間建設工事にも問われる発注者責任

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この時の建築基準法改正では、建築確認申請手続きが半年近くストップする大混乱が生じ、2008年秋のリーマンショックとも重なって建設業界は深刻な不況に陥った。こうした犠牲を払ったにもかかわらず、再び分譲マンションの建築工事をめぐる深刻な不正問題が発覚した。

今後、国土交通省が再発防止策を検討するとみられるが、このままでは工事現場での施工管理を強化するなどの対策を講じるだけで幕引きとなる可能性が高い。だが、それでは根本的な問題は解決しない。

今回の「パークシティLaLa横浜」をめぐる問題は、起こるべくして起こったといっていい。そもそも耐震強度データ偽装事件を受けた建築基準法の規制強化だけでは、日本の建設生産システムに横たわる根本的な構造問題にメスを入れられないことが明らかだったからだ。

それは民間の建設工事請負契約においては、契約当事者の片方、つまり工事を受注した側だけが責任を負う片務性が放置されていることだ。

「発注者責任」はほとんど問われない状態

建設工事は、建設業法に基づいて許可登録された建設業許可業者が完成を請け負う契約を結んで実施される。これは建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するのが目的だ。建設業者は請負契約を結んだ以上、設計図面に書かれたとおりに、決められた予算と工期で工事を完成させる責任が生じる。逆に言えば、「発注者責任」はほとんど問われない状態になっている。

旭化成建材が起こした杭打ち工事のデータ改ざんは、もちろん言語道断の許されない行為だ。ただ、発注者である三井不動産レジデンシャルが建設工事の品質確保に万全を尽くしていたのか。元請けでこの工事の設計や施工を担当していた三井住友建設は、いったい何を現場で監理・監督していたのか。その責任は極めて重い。

試作や検査を繰り返してつくる工業製品とは違い、建物の施工品質を確保するには、「厳しく工事監理ができる設計事務所」「優秀な現場監督を抱えるゼネコン(総合建設会社)」「優秀な職長がいる専門工事業者」に、適正な価格と工期で工事を発注することが不可欠だ。発注者責任がほとんど問われなければ、工事現場の監理や監督が甘くなるのも当然という構造問題がある。

古くから建設工事は、寺社仏閣、城郭、屋敷、町家まで「発注者みずからが所有する」目的で行われてきた。発注者は建設工事の知識に乏しい素人ばかり。ある意味、発注者の保護は当然であり、そうした考え方で戦後すぐの1949年に建設業法が制定された。

問題は、最大の工事発注者である国土交通省(旧建設省)が建設業者を管理監督してきたことだった。建設工事の請負契約は、発注者側に有利な片務性の高い内容で、対等な契約になっていないとの指摘は以前からあった。過去の審議会などで有識者から「発注行政と建設行政は分離すべき」との意見も出されていたが、発注者である役所が不利になるような見直しは見送られてきた。

ところが、公共工事の「発注者責任」をめぐっては事態が動く。2000年に元建設大臣の贈収賄事件を契機に入札契約適正化法が制定され、翌2001年に発足した小泉純一郎内閣が公共事業費削減に着手すると、公共工事の受注競争が一気に激化。ダンピング(不当安値)受注が相次ぎ、工事費の下落に歯止めがかからない状況が生じ、そのままでは公共工事の品質低下が確実視される事態に陥った。

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