「積み上げた 俺の処遇を 一瞬で またぎ越えてく 爆上げ初任給」売り手市場に泣く採用担当の悲哀つまった【採用川柳・短歌】

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うまくない でもなぜか好き この学生(東京都 佐藤宗次郎さん)

面接での受け答えは決して流暢とは言えない。それどころか、朴訥として、話す内容もそんなに深いわけではない。しかし、なぜか心惹かれる、応援したくなる。そんな学生との出会いを描いた一句だ。コンピテンシー評価や構造化面接など、採用の客観性・公平性を担保する手法が進化する一方で、最終的に人の心を動かすのは、スキルや経歴だけでは説明できない「何か」である場合が多い。それは、誠実な人柄であったり、熱意であったり、あるいは磨けば光るだろうポテンシャルを持った原石かもしれない。データやロジックを超えたところにある、人事担当者の直感や感性こそが、組織に新たな化学反応をもたらす人材を発掘するカギになるのかもしれない。採用の原点にある人間的な営みの温かさを感じさせる作品である。

履歴書に 性別欄なし 時代知る(愛知県 YSKさん)

日常業務のふとした瞬間に、時代の変化を実感する。そんな人事担当者のあるあるを切り取った作品だ。かつては当たり前だった履歴書の性別欄は、今やJIS規格の様式例でも任意欄に変更されている。これは、性別によるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)をなくし、応募者の能力や適性のみで公正な選考を行うという、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方が社会に浸透するとともに、ジェンダーへの配慮が進んだ証左である。履歴書という1枚の紙から、社会の価値観の大きなうねりを読み取る。日々多くの応募書類に目を通す人事担当者ならではの、鋭い視点が光る作品である。

【佳作】をあと3作品紹介しよう。

売り手市場に泣く担当者

応募なし ああ応募なし 仕方なし(大阪府 昭和の應援團さん)

古典的な句のリズムで、採用担当者の悲痛な叫びを詠んだ作品。あらゆる策を講じて求人情報を発信しても、応募はゼロ。その現実を前に、作者は「ああ」と嘆き、ついには「仕方なし」と諦観の境地に達している。特に中小企業や地方企業、不人気とされる業界では、母集団形成そのものが極めて困難になっている。この句には、個社の努力だけではどうにもならない、労働市場の構造的な問題に対する深い絶望感がにじむ。華やかな採用成功事例の陰で、声なき悲鳴を上げる多くの企業が存在するという現実を、我々は忘れてはならない。

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