自らが採用した新人が、自分の長年の努力をいとも簡単に飛び越えていく処遇を得る。その事実を目の当たりにしたときのやりきれなさ、虚しさ、そして会社への不信感までもが「またぎ越えてく」という強い言葉で表現されている。採用の成功の裏で、リテンションという新たな、そしてより深刻な課題が生まれていることを我々は認識しなくてはならない。
生成AIの進化が就職・採用活動に与える影響を巧みに切り取った作品である。流暢に志望動機や自己PRを語る学生。しかし、その言葉はどこか借り物めいていて、エントリーシートに書かれた美辞麗句との間に整合性がなく、語れば語るほど埋めがたい溝は大きくなっていく。面接官は、その違和感の正体が生成AIにあると確信に近い疑念を抱いている。エントリーシートとの食い違いを指摘しても、自分の中では同じだとの主張を繰り返すばかりで、もはや、それをさらに問いただす術はない。「君は言わずに」という下の句が、核心には触れられないもどかしさと学生と人事との間で行われる静かな探り合い、高度な心理戦を物語っている。
生成AIが作った文章や回答そのものを否定するのではなく、それをどう自分の言葉として血肉化しているのか、その背景にある本人の思考や経験こそが問われるべきだろう。AIとの共存が前提となった現代における、「人間性の見極め」という採用の原点にして永遠のテーマを、我々に突きつける一首である。
「採用も・できたらいいのに・サブスクに」
ここからは、【佳作】に入選した作品を抜粋して紹介しよう。
必要なときに必要な人材を、お試し期間付きで月額料金で利用できたらどんなに楽だろうか。「もしあのとき、もう一方の学生を採用していたらどうなっていたのか」と思う人事担当者は少なくないだろう。そんな人事担当者の夢想が「サブスク」という今どきの言葉で表現されている。しかし、現実はそう甘くない。「悩みが尽きない 人の見極め」という下の句が、採用活動の本質的な難しさを物語っている。人はモノやサービスと違い、スペックだけでは測れない感情やポテンシャル、組織との相性など、複雑な要素が絡み合う。その見極めこそが人事の腕の見せ所であり、最も頭を悩ませる部分なのである。効率化への憧れと、それがかなわない現実とのギャップを嘆く、人事の切実な本音が垣間見える。
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