傾きマンション、問題はどこまで波及するか 全国で施工した過去3040件をチェック

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苦労して全区分所有者の5分の4の賛成を集めても、北棟住民の3分の1以上が反対すれば、建て替え決議は否決されてしまうのだ。

現場には多くの報道陣が殺到(撮影:今井康一)

仮に建て替えが決まっても、苦難は続くだろう。同マンションの周辺には、実は賃貸物件そのものが少ない。あったとしても、築年数が15年や20年以上のものが中心であり、住居のグレードを落とさざるをえなくなる。

今回の問題は横浜市のマンションだけにとどまらないおそれもある。旭化成建材が過去10年間に基礎工事を行った物件は、全国津々浦々で3040件にも上っている。

マンション販売業者の中には、自社物件のうち、旭化成建材が基礎工事を施工した物件の洗い出しに着手したところもある。三井不動産グループが販売した物件の中にも、問題のマンション以外に4件あったことが判明した。

すべての杭打ちの監視は不可能か

旭化成としては、施工を行った3040件の所在地や建築種別など、概要を10月22日に公表。物件はマンションだけではなく、医療・福祉施設や学校など多岐に渡っている。今回傾いたマンションを担当した人物がかかわったのは41件だった。同社は社内に設置した調査委員会で、データを点検していく方針だ。

データが正しかったとしてもそれで安心とは限らない。あるマンション販売業者は、「売り主も現場に赴き、杭の1本目は支持層に届いているか、確認するケースはある。しかし、下請け業者が手掛ける何百本もの杭打ちのすべてを監視するのは、無理。元請けの施工業者も状況は同じと思う」と実情を吐露する。

「不正の多くは現場で起きる。今回の件は氷山の一角にすぎない」と河合弁護士は警告する。マンション建設・販売の構造問題にメスを入れ、第三者による現場監理の仕組みを構築しなければ、欠陥マンションは生まれ続ける。

「週刊東洋経済」2015年10月31日号<26日発売>「核心リポート01」を転載)

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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茨木 裕 東洋経済 記者

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いばらき ゆたか / Yutaka Ibaraki

1975年生まれ。「週刊東洋経済」編集部所属

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