仄聞するところによれば、ラトニック商務長官は「日本が提示する金利はこんなに安いのか!」と感銘を受けたらしい。われわれは昨今、10年物金利が1.6%前後に上昇したことに驚いているけれども、4%台のアメリカから見たらはるかに低いのだ。さらに言えば、今後急速に円高が進んで、後で返済に苦労するという確率も低そうだ。アメリカから見て、日本からの「融資及び融資保証」のコストは十分に魅力的な水準となるだろう。
もうひとつ、投資額の規模感についても触れておきたい。アメリカの商務省によれば、2024年末時点のわが国の対米投資残高は8192億ドルで、6年連続で世界首位である。2月7日の日米首脳会談において、石破首相が「対米投資1兆ドルを目指す」と言ってトランプ大統領を喜ばせたことをご記憶だろうか。あれは実はとっても楽ちんなターゲットなのである。
というより、これにソフトバンクグループの「スターゲート計画」による1000億ドルを加算し、日本製鉄によるUSスチール買収の146億ドル、さらに追加投資が300~400億ドルと見込まれるので、実は1兆ドルは年内にも達成されてしまいそうなのである。
もっともそれは、日本企業の過去の蓄積があるからであって、EUや韓国が言う「新規に6000億ドル」や「3500億ドル」の投資は正直、現実味があるとは思われない。ここは、「まあ、トランプ大統領が、国内向けに『どうだ!』と胸を張れればそれでいいのさ」(本気で実行する必要はない)とシニカルな見方もできるところだ。
さすがに将来は「覚書」作成も
一連の関税交渉において、「合意文書が存在しない」という問題もある。実をいうと、これまでに合意文書を作ったのはイギリスだけだ。米英交渉は合意が5月8日と早かったので、”Economic Prosperity Deal”という枠組み合意を作っている。
ただし法的拘束力のあるものではなく、議会による批准も不要である。なぜ文書を作らないかと言えば、多くの国と同時に交渉を抱えているアメリカ側に時間とマンパワーが足りない、というのが表向きの理由だが、ホンネを言えば文書化の作業中にトランプ大統領の機嫌を損ねて、せっかくの合意を壊したくないからであろう。
将来的には、各国がアメリカとの間で、イギリスと同様な覚書を作ることになるだろう。何しろアメリカ国内でも、反トランプ陣営から「合意文書がなくていいのか!」と突っ込まれているくらいなので。
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