察するにEUと韓国は、それぞれの背後にいる自動車業界から、「対米輸出の関税率が日本よりも高かったら承知せんぞ!」という強烈な圧力を受けたことだろう。ほんの数%でも、関税によって自国製品の価格競争力に差が付いたら一大事。結果的には数字がそろって、まあ良かったねということになった。
しかるに日・韓・EUが同じ条件を得るために、差し出したものはそれぞれに違う。EUは6000億ドルの対米投資と7500億ドルのエネルギー製品購入を約束した。さすがに経済規模が大きいし、ロシアから入ってこなくなった天然ガスはどうせ買わなきゃいけないし、だったらアメリカ産LNGを買いますよ、ということであろう。
一方、韓国は3500億ドルの投資と1000億ドル相当のエネルギー製品購入を申し出た。特に1500億ドルの投資を造船分野に特化する、としたことがハワード・ラトニック商務長官のハートに「刺さった」らしい。
「対米5500億ドル」の実像は「低利の資金協力」
ところが日本がアメリカに提示した5500億ドル(80兆円)とは、投資ではなくて「政府系金融機関による出資・融資・融資保証」である。この部分、あまり理解されていなくて「税金を80兆円も差し出すのか!」と言って怒っている方が少なくない。ここはキチンと説明しておくべきだろう。
日本側が提示したのは、JBIC(国際協力銀行)とNEXI(日本貿易保険)という2つの金融機関による資金協力である。わが商社業界にとっては、この2社は文字通り「足を向けては寝られない」存在である。JBICはかつて日本輸出入銀行という特殊法人であり、NEXIの機能はなんと旧通商産業省の本体の中にあった。いずれも今は株式会社化されているけれども、政府が100%の株式を保有する特殊会社である。
その昔、発展途上国でのビジネスは非常にリスクが高かった。そこで円借款などの制度金融を活用したり、貿易保険に頼ったりする機会が多かった。ところが21世紀になってから、新興国経済は急成長を遂げるようになり、貸し倒れなどの事案は少なくなった。となると、JBICやNEXIの存在意義も薄れてしまうことになる。ところが今回の日米合意によって、両社は「アメリカの製造業を再建する」という新たなミッションを与えられることになる。歴史の皮肉のようなものを感じるところである。
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