最後に、「近いうちにお父さんがいなくなっちゃうから、ちゃんとお話ししたいことはしておこうね。できるかな?」と問いかけると、2人とも「うん、できる」とうなずきました。
その日の夜、子どもたちは自分たちの意思で父親に手紙を書き、Aさんの枕元には「いつかきっと良くなるよ」「パパを困らせないようにするよ」「大好きだよ」など、心がこもったメッセージが集まりました。
反発していた長男も父親ときちんと向き合って、心の通じた会話ができたようです。父親に近づけなかった長女も、「いなくなる」と話したあとには、Aさんのそばで過ごせるようになりました。
Aさんの容態が急変したのは、それから数時間後のこと。家族でAさんを囲み最期を看取ったのが、父親のことを子どもたちに伝えた翌日でした。
がん患者の3分の1が現役世代
日本では、毎年およそ70万人が新たにがんに罹患し、その3分の1にあたる22万人が、現役世代(20~64歳)です。
子育て中にがんと診断されたとき、真っ先に頭に思い浮かぶのはお子さんのことでしょう。「子どもに心配をかけたくない」「子どもが不安がる」という配慮から、事実を伝えるべきか悩まれる人も多いと思います。
「病気のことをどう子どもに伝えるか」について、これという正解があるわけではありません。
ただ、これまでいろいろなケースに関わらせていただいたなかで筆者が思うのは、「子どもだからという理由だけで病気を隠そうとせず、きちんと事実を伝える」ということです。
子どもが幼かったとしても、その事実を知らないままに親が亡くなってしまえば、将来的に心に深い傷を残しかねません。実際、筆者の知り合いにも幼い頃に父親を亡くした人がいますが、がんであることを隠されたままだったそうで、「あのとき、病気について話してくれなかった母親を、長い間許せなかった」と話していました。
親ががんになると、病状によって生活は変化し、それは子どもにも多かれ少なかれ影響を与えます。そうでなくても子どもは親の変化を敏感に感じるので、隠していたとしても気づかれてしまうものです。
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