「不純物を取り除く」と発言した台湾・頼清徳総統の大問題。野党「排除」も失敗し、求められる対話の姿勢と「想像力」

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台湾は中国からの脅威の中で、自身のナショナルアイデンティティとは何かを日々考え続け、自分たちが勝ち取った民主主義を二度と手放すまいとした。欧米、日本などとの価値観を共有する国々に台湾という存在を知ってもらうために、リベラルな価値観のお手本であろうとした。

ナショナリズムとリベラルな価値観の共存はある意味台湾の生き残り戦略の中で生まれてきたと言っても過言ではない。華人の移住以前に台湾島の住人であった先住民、その後中国各地から移住してきた漢族の人々、中国大陸での内乱で国民党と共に台湾に移ってきた人々、台湾人との婚姻をきっかけに住人となった人々、さまざまな背景、考え方を持った人々が台湾の住人として生きている。

頼清徳には支持者以外と対話する言葉が必要

李登輝の時代の「新台湾人」から始まり、シビック・ナショナリズム(人種・血統・文化的同一性などに依拠せず、共通の価値観〈自由・民主・法治〉や台湾への帰属意識に基づいて形成される)を基盤とする「台湾人」をみんなで少しずつ、そして確実に構築してきたのだ。

頼総統には引き続き台湾内部の団結と粘り強い対話を促す姿勢が求められる。これまでのような特定の支持者層に向けた「刺さる言葉」選びに意識が向けるのではなく、無党派の中間層や、対立する立場にある人々とも向き合う「想像力」が必要だ。

敵と味方を線引きし、「非国民」を探すような言説は分断を深め、この先の政権運営をより厳しいものにする。台湾社会では数%にも満たないごく少数を除けばどの立場の人も「中華人民共和国の一部になること」が望まれていない。その共通項からもう一度対話の基盤を頼総統は再構築すべきだ。

前原 志保 九州大学准教授

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まえはら しほ / Shiho Maehara

カナダのブリティッシュコロンビア大学卒業(東アジア研究)、イギリスのリーズ大学修士課程修了(中国研究)、国立台湾大学国家発展研究所で法学博士号取得。 博士論文「李登輝と台湾アイデンティティ」(2014年)で台湾研究博士論文賞受賞。 監訳書に『蔡英文 新時代の台湾へ』(白水社、2016年)。現在、九州大学大学院人間環境学研究院 准教授。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。

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