「不純物を取り除く」と発言した台湾・頼清徳総統の大問題。野党「排除」も失敗し、求められる対話の姿勢と「想像力」

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2025年7月26日に、国民党の立法委員に対する大規模なリコール(解職)投票が行われたが、結果的に対象とされた24人すべてのリコール案が否決された。背景には、2024年の総統選で民進党が勝利した一方で、立法院では与党が過半数に届かず、野党国民党と民衆党は共闘する形で多数派を形成したことがある。

この状況を生かし野党は、内閣監視強化のための法案や政府予算案の削減・凍結案を続々と可決し、政権運営に揺さぶりをかけた。これに対し、民進党を支持する市民が反発。審議も不十分なまま強行採決される状況に憤り、国民党議員のリコールを求める署名運動が始まった。

この動きは前例のない規模にまで発展し、国民党は人気首長を動員して対抗した。本来、リコール自体は、公職者の不適格性に対処する制度だが、国民党がやっている「政権運営の揺さぶり」がリコールを要求するようなものであるかどうかの判断基準は人それぞれだろう。結果として、台湾社会は、リコールへの支持と反対に意見が分かれ対立した。

「不純物を取り除く」、波紋を広げた総統の発言

このような空気の中、頼清徳総統は、2025年6月から「団結国家十講」(国家団結への10個の談話)という講演をはじめた。第2講「団結」では、「連続的な選挙とリコール投票は民意を反映する手段である」とリコールを肯定的に語り、国家は「鉄を打つように、剣を鍛えるように、不純物を取り除くために打ち続けなければならない」とした。

この「不純物」という比喩は腐敗勢力や主権を脅かす存在を指すとされたが、文脈によっては野党や自分とは意見の異なるものを示すように受け取られ波紋を広げた。さらにこの講演は、桃園で開かれた客家青年会の場でもあった。

頼氏は台湾社会の少数グループである客家の人々が必ずしも母語としない台湾語(閩南語)のことわざを引用し「台湾語だけどわかりますか?」と聴衆に問いかけた。だが、客家語という独自の言語を持つ彼らを前にこのように尋ねるのは配慮に欠ける発言だと批判を呼んだ。

現在世界各国では左右両極の主張が目立つが、台湾は国際的な孤立の中で、孤独と屈辱に耐えながら国際社会における自らの立ち位置を探り続けてきた。その中で重要な柱となったのが、民主主義と人権、多民族共生を土台とした台湾人アイデンティティの構築である。

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