「不純物を取り除く」と発言した台湾・頼清徳総統の大問題。野党「排除」も失敗し、求められる対話の姿勢と「想像力」

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日本語で頼清徳氏について読める書籍は、元産経新聞台北支局長の矢板明夫氏が日本向けに翻訳・編著した『頼清徳――世界の命運を握る台湾新総統』(産経新聞出版)がある。ただ、これは台湾の有名な政治評論家が2024年の選挙前に出版した評伝であるため、台湾政治の流れは見えるが、頼氏の内面にある理念や意思決定への葛藤が見えないので共感ポイントを探すことが難しい。また、この書籍の中には彼以外の登場人物があまりにも少ない。

民衆との交流のエピソード、先住民、LGBTQ、ジェンダー、台南以外の地方の人々との交流――彼はきっと勤勉で、誠実で、自分が決めたことは誰がなんと言おうと最後までやり通す頑固な「親日(情に厚い)」の「いい人」なのだろう。それは理解できたのだが。

ちなみに頼氏自身の本はなぜ2024年ではなく、2019年に出されたのかといえば、それは、この本の出版直後に2020年の総統選の候補者を決める民進党内の予備選が行われたからだった。

頼清徳には広報戦略の見直しが必要

当時は現職総統だった蔡英文氏の支持率が低迷しており、2期目の当選が危ういと予想されていた。つまり、未来の総統選に向けた頼清徳氏の「名刺」となるべき書籍は民進党の予備選で蔡英文氏に勝つために「フライング」で出されてしまったので、3度出す必要はないと考えたのだろう。

確かに現在、SNSや動画といったさまざまな発信手段があり書籍という形にこだわる必要はないのかもしれない。しかし、じっくりと政治家の考えや姿勢を伝えるには玉石混淆の情報があふれるオンラインとは別の手段が必要である。

また、蔡英文政権期の広報戦略がかなり巧みであったことを考えると、頼清徳氏が総統としてのリーダーシップ決意表明の場、台湾の存在をアピールする外交手段にもなりえる著書を刊行しなかったことは、一番注目される絶好の「タイミング」を失ったといえる。今後のSNS発信を含めて広報戦略を見直す必要があると考える。これは日本への発信をというわけではなく台湾の住人に向けてもである。

政治路線についても変化がみられる。頼清徳総統は2024年の総統選で「蔡英文路線」を継承することを公約に掲げて選挙戦を戦った。

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