「まさか、こんな方法で?」「日本のラッコのルーツは鴨川?」イルカからクラゲまで水族館の驚きの繁殖事情《水族館が100倍楽しくなる話》

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これにはいくつか理由があり、まず国土が狭い都合、大量にイルカを飼えるほど大きなプールが用意できない。名古屋港水族館の1万3400トンのプールが異常値なのであり、多くの水族館はイルカを2、3頭飼うのが限界だ。これでは、繁殖させようにも近親交配が起きてしまう。

そして、飼っているイルカの性比もいささか偏り気味。繁殖期のオスは習性上気が荒くなり、ショーや健康管理に弊害が出るかららしい。だから、オスを水族館で融通し合うなどしないと、繁殖に関しては正直難しい。

イルカの飼育への風当たりが強い海外

では、日本よりはるかに繁殖技術が進んでいるという海外ではどうか……というと、むしろこちらのほうがイルカの飼育への風当たりが強く、衰退の方向に向かっている。

例えば、先ほどの鴨川シーワールド、神戸須磨シーワールドと同じ「シーワールド」の名前を持つ水族館が、アメリカにいくつか存在する。そこでは日本のシーワールド系列同様、有名なシャチショーがあった。

ところが、あちらはそれを2016年までに廃止した。それどころか、シーワールドの1つがあるカリフォルニア州では「シャチの繁殖・飼育」すらも禁止している。

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これは、現在飼っているシャチがいなくなったら、もう次のシャチが入ってくることはないことを意味する。それどころか、カナダでは2019年にクジラ・イルカの飼育目的での保有が法律で禁止され、フランスでは2021年に、ショーに使う生物の飼育そのものを禁止する法案が可決された。

つまり、国を挙げてイルカなどの飼育の禁止に踏み切った国がいくつもあるわけだ。

これらの世界的な潮流が、日本に波及してこないとも限らない。というか、JAZA(日本動物園水族館協会)と水族館のいざこざを見るに、確実に第一波は来ているだろう。

だって、先ほどのフランスの法律の制定によってショーができなくなったとある水族館のシャチ、日本の水族館に引き取ってもらおうとしたら、動物保護団体の反対にあって頓挫したんだって。結局そのシャチは、今もその水族館から動かせないでいる。

……それって果たして、彼らにとっては幸せなのか? もう、わけがわからんわ。

泉 貴人 海洋生物学者

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いずみ たかと / Takato Izumi

1991年、千葉県船橋市生まれ。福山大学生命工学部・海洋生物科学科講師、海洋系統分類学研究室主宰。

東京大学理学部生物学科在籍時に、新種であるテンプライソギンチャクを命名したことをきっかけに分類学の道を志す。2020年に同大大学院理学系研究科博士課程を修了。日本学術振興会・特別研究員(琉球大学)を経て、2022年より現職。イソギンチャクの新種発見数、日本人歴代トップ(24種)。東京大学落語研究会で磨いた話術を活かして、YouTubeチャンネル「水族館マスター・クラゲさんラボ」にて精力的にアウトリーチ活動を行う。X(旧Twitter)では「Dr.クラゲさん」(@DrKuragesan)として発信。

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