トヨタ「アルファード」は夢のまた夢、長期金利上昇が庶民の生活を直撃、「残クレ」でも手が届かない高嶺の花に
トヨタ自動車の「アルファード」は上位モデルの車両価格が1000万円を超える高級ミニバンだが、自動車ローンをうまく活用すれば庶民でも乗ることができた。最近の長期金利の上昇で自動車ローンの利払い負担が増加すれば、購入を断念せざるを得ないケースも増えそうだ。
低金利の時代が長く続き、自動車をローンやリースを活用して手に入れる個人の比率は増えていた、とKPMGコンサルティングで自動車セクターを担当する轟木光プリンシパルは話す。今後は「これらの金融商品が一般化して初めて迎える正常金利局面」になるとみている。
「残価設定型クレジット」(残クレ)はそんな時代に普及した支払い方法の一つだ。車両価格全体を分割払いするのでなく、納車から一定期間が過ぎた時点の想定売却価格を残価として設定。車を手放すまで定価と残価の差額を負担するだけで済むため月々の支払いを低く抑えられ、アルファードなどの高級車にも手が届いた。

自動車ローンを提供する銀行や自動車メーカー傘下の販売金融会社の資金調達コストが上昇してローン金利への転嫁が進むことで、消費者が高額商品を買いづらくなると見込まれている。轟木氏はローンの期間を長くするなど対策は考えられるものの、支払い総額は増えて「基本的にデメリットしかない」と話す。
ホンダのウェブサイトでは、今年4月以降の新車クレジットの金利は実質年率5.5%だったが、2024年6月時点では4.9%としていた。
マツダはトヨタ系との合弁で扱っている固定金利ローンについて、直近では今年4月1日に改訂したと明らかにした。7月現在の残クレのローン金利は3.9%と約1年前の3.4%から上昇している。長期国債の利回りが上昇している中で、さらなる引き上げについては金融政策などの動向をフォローし、顧客や販売会社の状況も加味して、適切なタイミングを検討すると述べ、具体的な計画についてはコメントを差し控えるとした。
SUBARU(スバル)は主要商品である残クレの現在の手数料率は3.9%で1年前から変わっていないとした。今後の金利動向や対策などについては回答を控えた。
現時点でトヨタからコメントは得られていない。
与党苦戦の余波
参院選投開票前の15日には、金融機関の貸出金利や住宅ローン金利の基準の一つとなる新発10年国債利回りが17年ぶりの高水準に上昇した。参院選での与党苦戦の見通しから、拡張的な財政政策に傾くとの投資家の懸念が背景にあり、財政リスク警戒で超長期債に広がっていた売りが長期債にも波及した。
日米関税合意を受けて23日にも債券相場は大幅下落。日本銀行の利上げがしやすくなるとの見方が売りにつながっており、新発10年債の利回りが上昇している。
自動車は住宅に次ぐ高額商品で、日本自動車工業会の23年度の調査では、新車の購入でローンやクレジット、リースなど現金一括以外の支払い方法を選んだのは全体の約42%に及び、金利上昇の影響を受けそうだ。
関東地方を中心に新車や中古車の販売を手掛けるトーサイ(埼玉県三郷市)ではこれまで1.9%の低金利を販促に活用してきた。馬場由浩専務取締役は17日のインタビューで、近い時期に「その看板を下ろさなくてはいけないかもしれない」との見通しを示した。
現状では顧客から懸念の声は少ない一方、取引先の金融機関とは金利引き上げの可能性が話題になることが多い。調達コストが上がればユーザーサイドの負担も「今後は上がっていくような方向になるのは間違いない」と考えており、顧客への説明の仕方を今から考えているという。「同じ商品を提供させていただくのに金額が高くなってしまう」ことになり、 購買意欲が落ち込んでマイナスの影響が出るともみている。
企業体力そぐ
ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生アナリストは自動車メーカーの金融子会社のローンやリース商品は調達金利からすると消費者に魅力的な設定となっており、調達と貸し出しの金利が逆ざやになる場合は、販売促進費として扱われると指摘する。
調達金利が上昇しても販売を落とさないよう転嫁を抑制して踏ん張れば、金融商品に頼らざるを得ない弱小メーカーほど無理を強いられ、逆ざや補填(ほてん)のための販売奨励金上昇や過激な金融商品による中古車価格の下落といった副作用をもたらして企業体力をそぐことになるという。
消費者の視点からすれば、金利上昇がローンなどの金融商品に転嫁されることで、月々の支払いが増えて新車が買いにくくなることにつながる。吉田氏は、高級車が欲しいのに大衆車で我慢したり、高級グレードをあきらめて質素な内装や機能で妥協するといった消費者行動も考えられるとした。
--取材協力:日向貴彦.
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著者:堀江政嗣、高橋ニコラス
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