《AI時代に響く営業術》書籍PRのプロと文芸評論家・三宅香帆さんが語る。相手の心に"刺さる"伝え方、「定型崩し」と言語化の極意
黒田:もともと文章を書くのは得意じゃなくて、国語のテストも全然著者の気持ちなんてわからないタイプだったんです。それなのに出版社で本のPRをすることになって、メールを書かなきゃいけなくなった。
出版社だと周りが文章のプロみたいな人ばかりなので、途端に自信がなくなってしまって……。それで、メディアの人に新刊を提案するメール文を作ったら、編集担当の人に添削してもらってから送っていたんですよ。
ところがある日、担当編集の人がいなくて、自分で初めてゼロベースでメールを書いたんです。
誤字脱字はあったかもしれないけれど、自分の体験だったりとか、自分が著者と会って聞いたこと、本には書いてないけれど「僕はここに感動したんです」みたいなことを必死に書いて送ったんですね。そうしたら、いきなりテレビの大きな番組が決まったんです。「あれ?」と思って。
つまりそれまでは、他人が言っているような、Amazonの内容説明みたいな、どこからか持ってきたような説明をメールしていたんです。でもそこで「相手に伝わる文章」って、「て・に・を・は」が合っているかじゃないんだ、と気づいて。
いかに「自分しか見ていない情報」を意識するようになってから、途端に提案が決まりだしました。これが僕のPR人生が一気に変わった瞬間です。まさに、三宅さんが著書の中で書いていたことーー、いかに相手に「自分だけの感情」を伝えることが大切か、ということですよね。
定型をいかに崩すか
三宅:黒田さんは、本の中でも「メールには本題と関係ない一言を付け加える」と書いていましたよね。どれくらいメール返信に時間を使っているんですか?
黒田:とにかく移動中はずっと返信をしているんです。現実的に言うと、それをやるかやらないかで、メディアの人からの返信率が圧倒的に変わる、っていうのがあって。
もちろん、返信ってほとんど来ないんですよ。みんな忙しいから。でも、本題とは関係ないことをほんの2行くらい付け加えて書くと、返信率が確実に上がるんです。
三宅:すごい。私は返信が本当に苦手なので、頭が下がります。
黒田:返信が苦手というのは、三宅さんは書こうとすると、クオリティの高い文章を書こうとしてしまう、ということですか?
三宅:いや、シンプルに、移動中も含めてずっと本を読んでいるので、本を読む時間を遮られたくないんですよ。でも、もっと早く返信しなきゃな、と黒田さんの話を聞くと思います。メールが苦手な方は多いと思うのですが、そういう方へのアドバイスってありますか。
黒田:「しゃべっているみたいに書く」ということですね。例えば最後に『追伸、僕、明日キャンプに行ってきます』みたいな、もう全然関係ないことを入れるんです。メールをもらった相手も気になるから。
「メールは定型文で送らなきゃいけない」というのがあると思いますが、僕は「いかに崩すか」ってことばかり考えてきたんです。
三宅:定型を崩す、ってことですね。
黒田:そう、定型を崩す。崩せば崩すほどいい。だからみんながすごくラフになっていたら、僕は逆にすごく丁寧な文章を心掛けると思います。
ほかにも僕はよく「リリースの一斉メールはしない」って言うんです。リリースの一斉送信って宣伝・PRの王道ですよね。もちろん送ってもいいんですけど、みんなが送っているから僕は送らないんです。
三宅:確かに。リリースって、届いても読み流してしまいますね。
黒田:三宅さんが『「好き」を言語化する技術』で言っている言葉を使うと……。
三宅:"クリシェ(=ありきたりな表現)"?
黒田:そうそれ! 僕にとって、リリースを送るっていうのはクリシェなんですよ。