”やり手”クルド人不法滞在者が「強制送還」されるまでの一部始終…送還促進に本腰を入れる入管、避けて通れない「外国人問題」のリアル

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M氏は、「法治」を最後まで理解できなかったらしい。政治有力者とのコネがあれば法律違反をしてもとがめられることはない、といった勘違いした法観念を持っているようだ。不法滞在状態や就労不可であるのに、日本にとどまり実質働いていることにやましさを感じる風はまったくなかった。

M氏は強制送還された後も、航空機や船舶など手段を選ばすに川口に舞い戻るつもりで、仲間に相談しているとの情報もあり、入管庁では水際防止を徹底する。

ただ、「成功者」であるM氏の姿にあこがれ、英雄視する川口在住のクルド人の若者もいたというから、法にのっとった厳格な対処を行う姿勢を示したことは、大きな影響を地元クルド人コミュニティーに与えているようだ。

川口市などには、M氏と同じ仮放免状態で滞在しているクルド人が約700人いる。順次送還の対象となることが予想される。

地元関係者によると、M氏の強制送還だけが影響しているわけではないが、最近帰国するクルド人家族が増えてきたという。トルコの学校は9月入学だが、子供の学校のことを考えれば、ちょうどこの時期が帰国するタイミングとしてはいいという。

入管庁の目標は「2030年末に送還忌避者を半減」

しかし、地域社会の問題の改善にはまだ時間がかかるだろう。

例えば、川口市立医療センター産婦人科の未収金(入院外来全体)に占める外国人の割合は2024年、前年比で約10ポイント増加し、全体の未収金3581万7470円のうち、2150万2113円と60.03%を占めるまでになった。外国人は必ずしもクルド人とは限らないが、出産を控えて親戚を頼って来日するクルド人もいるという。

外国人児童生徒数が増えている教育の現場でも、外国人生徒を対象にした日本語教育の必要が増大し、授業についていけず非行化する外国人生徒の問題が深刻化している。

入管庁は5月に「不法滞在者ゼロプラン」を公表し、送還忌避者については2030年末までに半減させるとの目標を掲げている。また自民党政務調査会も6月、「国民の安心と安全のための外国人政策 第1次提言――違法外国人ゼロを目指して――」を発表し、「ルールを守らない外国人には厳格に対応」と打ち出している。

今回M氏の送還が実現した背景には、地元政治家たちの度重なる訴えが大きな役割を果たした。

どれくらいの数の外国人を日本社会に受け入れていくのかなど、議論しなければならない課題は多いが、まず不法滞在・不法就労者問題を抜本的に解決しなければ、外国人受け入れ拡大に対して国民の理解を得ることはできない、との認識は為政者の間で広がっているようだ。

今回、決然たる姿勢を入管庁が示したことは、外国人問題全体が良い方向に向かうための大きなきっかけになるのではないか。

三好 範英 ジャーナリスト

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みよし・のりひで / Norihide Miyoshi

みよし・のりひで●1959年東京都生まれ。東京大学教養学部卒。1982年読売新聞社入社。バンコク、プノンペン、ベルリン特派員。2022年退社。著書に『ドイツリスク』(2015年山本七平賞特別賞受賞)『メルケルと右傾化するドイツ』『本音化するヨーロッパ』『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』『移民リスク』など。

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