”やり手”クルド人不法滞在者が「強制送還」されるまでの一部始終…送還促進に本腰を入れる入管、避けて通れない「外国人問題」のリアル
M氏は就業できない仮放免の状態で長期間、実質的に会社を経営し、多額の収益を上げるという、ある意味では「やり手」だが、その分クルド人の仲間内では必ずしも良く思わない人も多かったのかもしれない。
本人は「今回収容されたのは(最近)AbemaTVに出過ぎたからかもしれない」とも話していたというが、数年前から高級外車で東京都内と思われる場所を走り、東京湾らしき海で小型船舶を乗り回す動画をSNSに掲載し、仮放免者に課せられる「住居および行動範囲の制限」(居住地の都道府県から原則的に出ることはできない)を公然と無視するなど目に余る行動が目立った。
なぜ仮放免者が会社経営に携わって利益を得ているのか、といった地域の声も無視できず、入管庁は早くから送還の重点対象としてマークしていた。
M氏には2023年3月、彼の実質経営する川口市内の解体業会社の事務所で、3時間近くインタビューした。2002年、家族とともに最初に来日し、いったん帰国したのちに、2004年、再来日し、以降、難民申請を繰り返したり、難民不認定・退去強制の取り消しを求める訴訟を繰り返したりして、20年以上不法滞在を続けていた。
難民申請は5回繰り返したが認められず、難民不認定取り消し訴訟も最高裁判所で敗訴した。ただ、子供のときに来日したので、入管施設に収容されることもなくずっと仮放免状態だった。定住者の在留資格を持つ日系南米人の女性と結婚し、子供は3人いる。
政治家に接近、慈善活動をアピール
入管庁はクルド人が、その民族的属性だけを理由にトルコ政府から迫害されることはほぼないとみている。相当具体的な迫害の事実を示さないと難民認定はされないが、クルド人であることを理由に、これまで難民として認められたのは、難民不認定処分の是非が争われ札幌高裁で国側が敗訴した1人だけである。
インタビューではM氏自身が、「僕が難民認定されないことはわかっている。不可能なことをずっとお願いしてもだめ」と話し、配偶者が日系人であることから在留特別許可で「定住者」の在留資格を取ることを目指していた。
埼玉県や川口市の地元政治家や政治団体に接近し、日本の各地で起きる自然災害の際はトラックで支援物資を運んだり、福祉基金などに寄付をするなど、慈善活動家としての姿をしきりにアピールした。インタビュー後のことだが、埼玉県知事による寄付に対する表彰状授与式には自ら出向くことで歓心を買っていた。
手渡された分厚いファイルには、こうしたボランティア活動時の写真のコピーに加え、川口市会議員も含む日本人の知り合い50人から集めた、M氏の在留資格を求める嘆願書や、仲睦まじいことを強調する多くの家族写真のコピーがとじられていた。
日本での「定着性」を強調して在留資格を得ようという作戦だが、この家族との関係も本人の素行の悪さから、危うい状態だった。さらに、今年3月にはその当時同居していた女性に暴行を加え、逮捕された。こうした事情は地元関係者の間ではよく知られた話だった。
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