国境地帯で見たミャンマー避難民支援活動。アメリカ政府の援助が途切れ、苦境に陥る医療。日本がつなぐ教育支援
筆者がCDCに関心を持ったきっかけは、鍵盤ハーモニカだった。ミャンマー・タイ国境の取材に訪れる際には、できるだけ日本から支援物資を持っていくようにしている。支援団体やミャンマーに関わる知人から頼まれた物をできる範囲で手荷物に詰め込む。そうした中、こんな依頼があった。
「もし可能なら、鍵盤ハーモニカを持って行ってもらえないだろうか」
正直、最初は首をかしげた。鍵盤ハーモニカが本当に支援になるのだろうか。それに、決して軽い荷物ではない。どうして鍵盤ハーモニカが必要なのか、ただ物を届けるだけでなく、現場の空気や背景を自分の目で確かめたくなった。そうした疑問と興味が、この学校を訪れる大きな要因になった。
CDCには、長い歴史を持つ 「音楽クラブ」がある。現在、58人のメンバーが放課後に練習を重ね、運動会や地元の行事での演奏も行っている。

「メンバーの中には空爆や家族の死を経験してきた子もいます。見た目は元気でも、心には大きな傷があります。楽器を演奏する時間は、彼らにとって“心の避難所”なんです」(ノウブレイワーポー氏)
同氏は、「演奏活動はトラウマを和らげる『音楽療法』として大きな効果を発揮している」と説明する。
音楽活動によって他の生徒と交流が深まったり、明るくなる子どもも少なくない。音楽を通じて、タイの学生と話ができるようになったり、文化的な壁を越えるきっかけになったりしているともいう。
音楽クラブ活動を通じ、自主性を培う
「最近では韓国ドラマ『イカゲーム』の主題歌がお気に入りだそうです。タイの友だちと音楽の話で盛り上がっている姿を見ると、本当にうれしくなる」(ノウブレイワーポー氏)
最近では音楽クラブの子どもたちが自分たちで話し合い、校内にアイスクリームの屋台を立ち上げた。その売り上げの一部を彼らの活動資金に充てようというのだ。
子どもたちが自ら課題を見つけ、仲間と知恵を出し合って解決していく。それについて話すノウブレイワーポー氏の表情は、どこか誇らしげだった。困難な環境の中でも、子どもたちは確実に成長している。そう感じさせるエピソードだった。
「将来はビジネスマンになって世界を飛び回りたい、という子もいます。人生を奪われた子どもたちにとって、楽器が希望を支えているのです」(ノウブレイワーポー氏)

また卒業生の中には、ギターを手に教会で演奏したり、夜のライブハウスでパフォーマンスをしたりと、音楽と関わりながら生きる道を選んだ者もいるそうだ。
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