「フリック入力」を発明しMicrosoftに売却した彼の"逆転"人生。元・売れないミュージシャン兼フリーター、家賃3万のボロアパートでひらめく
めでたく特許事務所に就職した僕は、当時の所長に言われた、「文系の大学を出てる弁理士はクライアントに舐められる」という一言をきっかけに、舐められないために、理系の最高峰である東京工業大学(現在の東京科学大学)の大学院に入ることにしました。
というのも、たまたま技術経営という文系寄りの学科で社会人枠の二次募集が行われていたので応募したところ、弁理士という武器もあり、滑り込むことができたのでした。
パッとひらめいたフリック入力
フリック入力を思いついたのは、2007年の正月が明けたばかりの冬の夜、東京都文京区の、家賃3万円のボロアパートに帰ってきたときでした。
玄関のドアを開けようと冷たいノブに手をかけ、ひねった瞬間、「あいうえお」が十字に並んだ図形が、戸板に浮かぶように、パッとひらめいたのです。
すぐに、カレンダーの裏にアイデアをスケッチしました。これであの面倒な5タッチ入力とオサラバできる……。

2つ折りのガラケーが全盛期だった当時、僕はコータの「こ」を打つために「か」を5回打つ「5タッチ入力」が面倒くさくて嫌いでした。僕、究極の面倒くさがりなんです。
そこで、翌日のランチタイム、職場の所長弁理士に、カレンダーの裏に描いた図形を見せてみました。「これ、すごくないすか? 昨日思いついたんですけど」と言うと所長は、「小川くんね、これ、面白いけど、俺は絶対使わないよ。だって覚えられないもん」。
所長の奥さん(家族経営の事務所だった)も、「これは流行らないかもしれないけど、練習のつもりで特許書類、書いてみたら?」と言われたので、自分で出願することを決めました。
フリック入力はポケベル入力から着想したものです。僕はポケベル世代。ポケベルに公衆電話から文字を送るために生み出された「ポケベル入力」で打っていました。
ポケベル入力とは、「こ」を打つために「2」と「5」を順に打つ方式です。2回だけ打てばいいので早いのですが、50音表を頭に入れて慣れる必要がある、というハードルがありました。

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