《朝ドラ》「ぼくはもう小松記者を好きになっていたのだ」やなせたかしが恋した新聞記者、「ハチキンだけど気遣い」の素顔
「男三人女一人、助けあって大障害物レースをやっているようなものだが、不思議にも苦痛ではなかった。むしろピンチを乗りきっていく面白さがあった。スポーツに似ていた。軍隊生活に比較すればこんなことは何でもないし、誰もみんなおなじように貧しかったから見栄をはる必要はない」
東京では盛り場を取材したり、国会議員や郷土出身の作家と会ったりしながら、夜は飯倉片町にある高知新聞の支局の2階に泊まったという。「社員旅行のような感じであった」とやなせが言うように、4人の絆が深まる取材旅行になったようだ。
「ぼくはもう小松記者を好きになっていたのだ」
自由行動もあり、楽しい東京での旅で終わる……はずだったが、4人で食べた、闇市でのおでんがよくなかったらしい。男3人とも猛烈な下痢になってしまい、支局のトイレにかわるがわる駆け込む事態となった。
小松記者だけが無事だったのは、理由がある。やなせはおでん自体が珍しく、竹輪、かまぼこ、はんぺん、大根、ツミレ、ゆで卵などの具に感動し、男3人でバクバク食べた。
ところが、やなせがあとから聞いたところによると、「竹輪やツミレはなるべく男性陣に食べさせてあげよう」と小松記者は、主に大根とジャガイモを食べていたのだという。その気遣いが結果的には功を奏したようで小松記者だけが体調を崩さずに済んだのである。
思わぬ体調不良者の続出で、予定通りに帰ることが難しくなり、出張は延期することになった。やなせがほかの2人よりも早く回復したため、小松記者と荷物を整理したり、原稿を送ったりと雑用をすべて一緒にやることになったという。
2人でリヤカーに荷物を全部運んだ頃には、やなせは小松記者に恋心を抱いていた。
「ぼくはこの共同作業がうれしかった。この時、ぼくはもう小松記者を好きになっていたのだ。焦土の街を二人で歩いていくと、トラックの上からひやかされた。ぼくらはみすぼらしい格好をしていたが、それでも恋人どうしのようにみえたのかもしれない」
自分以外の2人の回復が遅れたのは、やはりひとつの運命だったのかもしれない――。
そんなふうにさえ感じたやなせだったが、このあと小松記者にプロポーズする紳士が現れて、事態は急展開を迎える。
(つづく)

【参考文献】
やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)
やなせたかし『ボクと、正義と、アンパンマン なんのために生まれて、なにをして生きるのか』(PHP研究所)
やなせたかし『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)
やなせたかし『アンパンマンの遺書』 (岩波現代文庫)
梯久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』 (文春文庫)
真山知幸『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたのか?』(サンマーク出版)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら