インドネシアで進む権力集中と民主主義の後退。平和的に選挙と政権交代が行われているようだが…

![週刊東洋経済 2025年7/12号(岐路に立つ東南アジア)[雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/51tCL+CB07L._SL500_.jpg)
インドネシアでは2024年に大統領選挙が実施され、当選したプラボウォ・スビアント氏が新大統領に就任した。24年は多くの国で選挙が実施され、与党敗北や政権交代も多かった。
その中でインドネシアは、前職大統領の任期満了に伴う選挙だったために政権は交代したものの、プラボウォ氏は前大統領の全面的なバックアップを受けて圧勝するなど、継続性の高い政権交代となった。投開票は平穏に行われ、政権交代も平和的に進んだ。一見すると、インドネシアの民主主義は安定しているように思われる。
ただし、当選後のプラボウォ氏には、とくに外国メディアから厳しい視線が注がれた。プラボウォ氏には、スハルト独裁政権(1966〜98年)末期に陸軍高級将校として数々の人権侵害事件に関与した疑いがあったためだ。
これに対してプラボウォ氏は、59%の得票率で圧勝した自信から、「私は選挙で信任された」と述べたうえで、「民主主義が心配だという言説はメディアが作り上げたものだ」と懸念を一蹴した。
「後退」は前政権期から
しかし、選挙後、民主主義のルールや価値観を無視したり軽視したりするような出来事が続いている。例えば、政権発足前には大統領が自らの一存で中央省庁の数を決められるようにする法改正が行われるなど、大統領権限の強化が図られた。
プラボウォ氏はその権限を使って政党に大量のポストを分配。国会議席の約8割を押さえる巨大与党連合を形成することに成功した。野党は1党のみとなり、議会による権力の抑制機能はほぼ失われた。
巨大与党連合は、統一地方首長選挙でも形成された。民主化後の地方分権化で中央政府の思いどおりにならなくなった地方政府をコントロールする体制が整えられた。
政権発足後には、軍の政治関与を制限するために民主化後に制定された国軍法が改正され、現役軍人が出向できるポストが拡大された。プラボウォ政権では、大統領と関係の近い軍出身者が閣僚や政府ポストに多数任命されるなど、軍の影響力の拡大が続いている。
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