インドネシアで進む権力集中と民主主義の後退。平和的に選挙と政権交代が行われているようだが…
ジョコ政権下で民主主義が後退したことは、インドネシア政治研究者の間では共通認識となっている。スウェーデンの独立調査機関V-Dem研究所の指標では、「自由民主主義指標」がジョコ政権の10年の間に大きく低下したことが示されている。

自由民主主義指標の構成要素である「自由主義指標」は、第1期ジョコ政権末期の18〜19年以降大きく落ち込んでいる。これは、法の支配や執政府に対する統制が失われつつあることを示している。表現の自由や結社の自由、選挙の公正さを示す「選挙民主主義指標」は、ジョコ政権発足当初から低下し、24年には0.5を切った。V-Demの定義では0.5以上の国が「民主主義」と分類されている。今や、インドネシアは「権威主義」へ移行しつつあると評価されているのである。
国民から高い支持
それにもかかわらず、国民は政権を支持している。ジョコ政権10年間の平均支持率は68%。しかも任期末になるほど支持率が上昇した。プラボウォ政権に対しても、発足100日時点での支持率が81%を記録した。
政権への支持率が高いのには、コロナ禍期を除いて5%の安定した経済成長率を維持した一方でインフレ率が非常に低く抑えられてきたという経済的理由がある。一方、政権を批判できる強力な野党が存在せず、市民の批判の声を政権が摘み取ってきたためでもある。
結果的に、選挙も政権交代も平和的に行われた。政局も非常に安定している。ただし、こうした政治の安定には負の側面が存在する。
大統領を中心とした一部政治エリートのみに権限が集中するため、政策決定のスピードは速まった。一方で、政策の安定性と決定プロセスの透明性は低下する。権力の抑制が働かなくなり法の支配が軽視されれば、政策に対する予測可能性が落ちる。軍出身者などの側近を重用し、密室で政策を決定する傾向にあるプラボウォ大統領の下で、民主的なガバナンスはどれだけ保たれるだろうか。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら