30分の熟考より「ひらめき」を信じることが良い判断を導くワケ――脳の専門医が教える《直感を大事にしたほうがいい理由》
ただし、直感は馬鹿にはできません。
「ファーストチェス理論」というのがあります。チェスのプロを目指す人たちにチェスのある局面を見せ、次の1手を5秒で答える場合と、30分かけて熟考した場合で比較したところ、その差がほとんどなかったのです。
また別の実験では、サッカーの試合の結果を予測するのに、2分間の時間を与えて考えさせた場合と、ほぼ即断即決で答えた場合を比較しました。すると時間を与えたグループより、即断させたグループの方が、正解率が高かったという結果が出たそうです。
いずれの実験においても、時間をかけず、ほぼ直感的に判断しても結果は変わらないか、むしろ良かったということ。
これは何を意味しているかというと、直感というのが実際に判断の上で有効に働くということです。じっくり考えたほうが、いい結果になるとは限らないのです。
「直感」はどこから生まれる?
直感や第六感と呼ばれるものは、程度の差こそあれ、本来は誰もが持っている能力です。脳科学的には、直感は脳の中の「扁桃体」「腹側線条体」「側坐(そくざ)核」と呼ばれる、感情や報酬に関与する部分が反応すると考えられています。
扁桃体は、危険や危機的状況が生じたときに、瞬時に反応する部分です。
脳の深部皮質の中に存在するもので、動物が他の動物に襲われそうになったときに、瞬時に体を最大限に使ってその危機から逃れる。そのようなときに使われる脳です。
危機的状況を逃れるため、無意識のうちに瞬発的に反応するのが扁桃体で、同時に感情などを司る部分でもあります。
一方、腹側線条体、側坐核は脳の報酬系を司る場所とされていて、過去の成功体験などを覚えている場所です。どうしたら再び成功して、ドーパミンなど脳内ホルモンの快感=報酬を得られるかを、半ば本能的に察知する脳でもあります。
いずれにしても、過去の体験や知見、さまざまな情報の蓄積から、瞬時に最善の方法や対策を導き出す脳の働きが「直感」といえます。これは、職人と呼ばれる人たちの仕事の仕方を見るとよくわかります。
現場一筋で仕事をしてきた職人は、膨大な経験値と情報を身につけています。その豊富な情報をもとにして、感覚的に判断し、体や手を動かし、精巧なモノづくりを行っています。
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