これまでアメリカの自動車産業は、従業員に手厚い保護を与えていた。退職後も年金を支給し、医療費の面倒を見た。労働組合が強いからだが、日本の企業一家より温情的で家族的だとも言える。ただ、企業の側から見れば、これは重い負担だった。09年にアメリカ政府から支援を受ける際に、それらが整理されたのだ。それによって企業の負担が軽減され、利益が増えた。
身軽になった自動車産業は、今後もアメリカ国内に残るかもしれない。これまでの自動車産業の生き残りは、次項で述べるように、政治力に頼るものだった。しかし、今後は、さして巨大ではないが強い産業として残る可能性がある。
これは、労働者から見れば、厳しい事態だ。先進国において製造業が生き残るための必要条件は、資本主義の論理を冷徹に貫き、雇用を整理してスリム化することだと分かったからだ。先進国での製造業の復活は、「ジョブレスリカバリー」にならざるをえないのである。
大統領選のキャンペーンで、製造業の復活が謳われている。労働者はそれを聞いて、雇用が戻ることを期待するだろう。しかし、それは実現しない。資本家はそれを聞いて、利益の復活を期待するだろう。こちらは実現する可能性がある。同床異夢のうち実現するのは、資本家の夢である可能性が高い。
垂直統合企業は政治力が強い
製造業がアメリカから撤退していく中で自動車産業が残ったのは、それが垂直統合型の産業であるためだ。この間の事情を説明しよう。