
変わり者の医師が田沼意次に進言
「この際、ロシアと堂々と交易をすれば、日本の国力は増すことになるでしょう」
老中の田沼意次にそんな大胆な提言を行ったのは、工藤平助(くどう・へいすけ)である。江戸詰めの仙台藩医だったが、なかなかの変わり者だったようだ。
医師は剃髪するのが当然とされた時代に、平助は髪の毛を伸ばして、自分流を貫いた。そんな平助を面白がってか、訪れてくる者も病人のみならず、多種多様だった。
平助の娘で国学者の只野真葛(ただの・まくず)が書いた『むかしばなし』という随筆によると、平助の魅力に引き寄せられるかのように、学問に傾倒する者や蝦夷地から上京してきた者、さらに賭博者までもが、訪ねてきたという。
そんなある日、平助のもとに田沼意次の用人が訪ねてきた。主人の意次について「富にも禄にも官位にも不足なし」としながら、こんなことを言い出した。
「この上の願望としては、老中の実績として、永続的に人々の役に立つことを成し遂げておきたい。どんなものがよいだろうか」
財も地位も申し分ないので、あとはさらなる名誉を、といったところだろうか。これを聞いた平助は「それそれ! そのことよ!」と前のめりになり、こうぶち上げたという。
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