消費増税では財政再建できない 「国債破綻」回避へのシナリオ 野口悠紀雄著 ~客観的な視点からの冷静な議論を促す

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こうした中で、もし仮に消費税率の引き上げのみで財政を安定化させようとすると「消費税率を30%にする必要」があり、「常識的な範囲の消費税増税では、財政は健全化できない」ということになる。

そこで、財政再建のためには増税と併せて歳出の見直し、とりわけ社会保障給付の抑制を図ることが不可欠ということになる。この点について、著者は、まず公的な社会保障制度によってカバーすべき施策の範囲について再検討を行い、公的施策によって実施する場合にも、その財源は消費税の増税のみによらず、資産課税や年金課税の強化を通じて確保することを提案している。

本書の試算によれば、年金給付に対して10%の税率で課税を行うことができれば、4兆円程度(消費税率1・5%相当分)の税収が確保できるという。資産課税や年金課税の強化は、世代間格差の是正という観点からも望ましい措置といえる。

財政再建については、「増税は必要ない」という立場と「とにかく増税さえできればよい」という立場の間で、ともすると極端な議論がなされがちだが、残念なのは、そのような議論の過程で政府や与党に対する信認が著しく損なわれてしまうことだ。本書に示されているように、客観的な視点から冷静な議論を積み重ねていくことが、いま何よりも重要なことであるように評者には思われる。

のぐち・ゆきお
早稲田大学大学院ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。1940年東京生まれ。東京大学工学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。イェール大学でPh.D.取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学教授などを経る。

ダイヤモンド社 1575円 292ページ

  

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