親子同時襲名「尾上菊五郎」が11歳の息子「菊之助」へ伝えたい言葉。歌舞伎役者として生きる《宿命》、親子で乗り越える葛藤の日々
でも、役者を辞めるという選択肢は自分にはなかったので、逃げ出そうにも逃げ場はない。あの頃、團菊祭(だんきくさい)の楽屋で團十郎さんと「将来は僕らで一本ずつやりたいね」なんて夢を語り合ったりしていましたが、一人になるとそんな先は見えずに、どうしていいかわからなくなる。
鬘(かつら)のクリ(生え際の形)さえ自分に合うものがわからずに、自分の顔の型を取って、それに名優の方々の写真を拡大コピーして貼ってみたり、迷走していましたね。
祖父や父、六代目梅幸さん、二代目尾上松緑のおじさん、六代目中村歌右衛門さんの写真を貼りましたし、毎月売り出されるブロマイドも買って研究していました。坂東玉三郎さん、(六代目)尾上松助さんや九代目市川團蔵さんの写真も買っていました。
「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」
とにかく色々な試行錯誤を繰り返すうちに、小さな光が見えてくる。
NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2022年)でモモケンこと桃山剣之介の親子2代を勤めた際、モモケンが演じる時代劇の主人公棗 黍之丞(なつめ きびのじょう)に「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」という名台詞がありました。
自分に当て書きされたのかな⁉というくらい、胸にピタリとくる言葉です。1つの暗闇を乗り越えたら、また別の暗闇がやってくるのも芸の道。私は、「菊之助」という名前に相応しくなりたいと思って舞台に立ち続けてきました。

六代目菊之助へーー。色々な壁、挫折に突き当たっても、憧れの気持ちを持ち続けて歩みを止めない限り、必ず乗り越えていける。
答えを早く求めないほうがいい。一生をかけて追い求めることだからこそ、役者は面白い。地道な努力の積み重ねこそが光に繫がる。前を向いて、真っ直ぐ歩いていこう。
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